プロローグ・2021復活の日<後編>
ふたりに続いて、アッ! と小さく声を上げる者があった。
身長10㎝の宇宙船クルーだ。
オモチャではなく、まるで生きているように見える彼は、驚いた顔でふたりを見ている。
「こ、小人⁈ もしかして、オモチャなんかじゃなくって本当に生きているの⁈」綾音は目を真ん丸にしながら宇宙船クルーに問いかけた。
「起きた途端のことだし、こちらも油断した。まさか人間がいるところで目覚めるとは。いや、状況からみて、君たちに救い出されたんだろうな・・・」ひとり言の口調から、ふたりに向けたものに小人の口調が変わる。「姿を見られてしまったのなら、もう隠しようがない。怪しいものじゃない、僕はミクロマン。名をマックスと言う。オモチャに見えるかもしれないけど、本当に生きている、生命体だよ」
辰巳は姉の後ろに隠れながら、「スッゲ、スッゲ!」を連呼している。「ミクロ、“マン”⁈ ヒーローなの⁈」幼児の質問にマックスが苦笑いをした。
「ヒーローかどうかは自分ではわからないけど、悪いやつではないと一応、自己申告させてもらうよ。僕はね、ミクロアースという星からこの地球にやってきた者だ」
怖がっていた辰巳の目が興味の色を示し出す。「宇宙人⁈ スッゲ⁈ どうして地球に来たの⁈」
マックスと名乗る小人型宇宙人は、綾音と辰巳に事情を説明してきた。
彼が住んでいたミクロアースとは、平和を愛する高度な科学力を持つミクロマン(地球の人間からみたら小人サイズのミクロ星人)たちが住む、自然と科学が融合、人々の意志・主義・思想も理想的に調和した、稀にみるすべてに恵まれた美しい惑星だった。しかし、それが謎の天変地異に襲われ、最後は大爆発を起こし宇宙から消え去ってしまったのだという・・・。
危機を察知し、からくも脱出できたミクロマンたちも数多くいた。そのうちの一人がマックスと言うわけだ。彼は他の生き残ったミクロマンたちと共に、生命維持装置であり、宇宙を漂う機能も持ち合わせている超カプセルの中で深い眠りにつき、気が遠くなるような長い長い年月を経て、この地球にたどり着いたのだという。
「じゃ、地球に来て間もないというわけ?」綾音の問いに彼はかぶりを振った。
「いや、そうではない。実はあのカプセルで眠りについていたのは2回目なんだ・・・」
地球に来たのは今から何十年も前だとマックスは言う。偶然か必然か多くのミクロマンたちが地球に降り立ち、彼らは一部の地球人と友人となり、協力し合い、極秘裏にこの星に居を構えた(宇宙の神秘についてまだ幼い知識しかない人類である、地球人すべての前に異星人である彼らが姿を現すのはまだ時期尚早だと判断したとのこと)。
その矢先、思わぬ事態が起こっていることをミクロマンたちは知ることになる。ミクロマンの一部が邪悪なる“アクロイヤー”という悪魔のような存在に変化・変貌を遂げ、地球侵略を企て始めたのだ。
「それ以来、僕たちは人間の知らないところで、地球人類を“狂気と混沌に陥った同胞の魔の手”から守るために戦い続けているんだ」
「アクロイヤーって悪者なんだ! やっつけてるんでしょ! マックスはやっぱ宇宙ヒーローなんだ! スッゲ! カッコイイ!!」幼い辰巳がどれほどマックスの話を理解できているかは甚だ怪しいものだが、真摯に語るマックスに信用を置き始めているのは、いつの間にやら綾音の後ろから離れ出窓に上半身を乗せていることからも窺える。
「すごい話だわ!! 最初、小人かと思ったけど、宇宙ヒーローだったんだね。自己紹介が遅れました。私は、磐城(いわき)綾音、9歳です。こっちは弟の辰巳で4歳」綾音の改めての挨拶にマックスは右手を挙げて見せた。
「綾音ちゃんに、辰巳くんか、よろしく」
「それで、何で2回目の眠りについていたの?」綾音の質問に、マックスは視線を落とした。
「地震の時に、大変なことが色々と起こってね、戦いに傷ついた僕は気を失い・・・同調しているカプセルの緊急システムが作動したようで、自動回収され、傷が癒えるまで眠りについていたようなんだ。覚えているのはカプセルに助けられるより前、アクロイヤーとの戦闘で重傷を負って、三崎公園の海に落ちたところまで・・・」
「それでその後、流れ着いて砂浜に埋まってたんだねー? それを偶然、あたしたちが見っけたと。・・・で、地震て、いつの?」と、綾音。
「311、411だよ」と、マックス。
「なに、それ?」綾音が首を傾げた。
「え?」マックスは訝しげな表情になった。「あの大地震だよ! 東北を襲ったやつ!」あのような大地震を知らないはずがない。
「・・・」綾音は窓の外に目をやりながら、思い出したことを口にした。「311、411って、昔あった大地震が起きた日のことを、そう言うんだっけー」
「昔・・・?」マックスが輪をかけて訝しげな顔になった。
「そうだよ、昔だよ。私が生まれた年! だから今からちょうど10年前かな!」綾音の言葉にマックスは背筋がぞわっとした。「い、いま・・・何年なんだい⁈」
綾音は壁にある、お年玉で買ったばかりのお気に入りのアニメカレンダーを指さす。「2021年だよ、書いてあるでしょ」
マックスは愕然とした。「2021年だって・・・⁈ 僕は、2011年の4月に意識を失って・・・10年間も眠り続けていたっていうのか・・・⁈」
小人型宇宙人である彼は、思いもよらない話の流れに頭が混乱した。
〔つづく〕
プロローグ・2021復活の日<前編>
2021年初頭のとある日曜日――。
綾音(あやね)はその日、弟の辰巳(たつみ)と共に母親に連れられ、太平洋に面した“三崎公園”という地元のシーサイドパークに遊びに来ていた。
日曜日だがひと気は少ない。9歳になる綾音と4歳になる辰巳がいかようにふざけようが大声を出そうが、ひと目を気にすることなく、やりたい放題できることに、二人は大はしゃぎしていたのだった。
「ママを撒いて驚かそう・・・!」
幼い姉と弟は内緒の決め事をする。芝生がひろがる広場のアスレチックの柱をくぐり抜け、坂道を駆け下り始めると、徐々に波の音が耳に入ってくるようになった。坂の下にある防風林の隙間をあちこちぬって、とうとう小さな浜辺に出ると、必死になって追いかけてきていた母親も、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
海は穏やかで、風もない。真冬だが太陽の日差しも温かかったし、ずっと駆け回っていたふたりは息も荒く、暑い暑いと上着を脱ぎ捨てると、追いかけてきている母親のことはもうすっかりと忘れ、浜辺の砂で遊び出したのだった。
「ん・・・?」
穴を掘り進めていたふたりは砂の中に何かが埋まっているのを発見した。
それは、4つの巨大なタイヤを持つ、ベージュ色のボディをしたオモチャの車だった。この前、両親がTVで観ていた外国のSF映画に出てきたような、ガトリング砲が装備されている戦闘車両である。ちょっとしたラジコンカーくらいの大きさで迫力があった。
そしてそのすぐ傍には、長さ10センチくらいの長方形の形をした、小さな透明カプセルが埋まっていた。中にはイエローとホワイトのツートンカラーのボディをした男性フィギュアが収まっている。宇宙船クルーの様ないで立ちの彼は、まるで棺桶の中で眠っている死者のような・・・そんな不思議なオモチャであった。
戦闘車両は明らかにフィギュアが乗せられるようになっており、そのふたつがセットということが分かる。
「超カッコイイ! いいもん見っけた!」
ふたりは予想外の発見に興奮しながら、岩場の隙間にある浅瀬で戦闘車両とカプセルを洗う。どちらも古ぼけているが、どこも壊れてはいなさそうだ。なかなかカッコ良いデザインに、ふたりはひと目で気に入ってしまった。
浜辺には誰もいないし、そもそも結構な時間、砂浜に埋まっていたようである。随分と前にどこかの子供が忘れていったものなのだろうと綾音は解釈した。
「これ、もらっちゃおう!」
綾音が笑みを浮かべながら口にすると、「誰の? いいの?」と、辰巳が心配して聞いてきた。正直者の弟のことだ、母親に告げ口されたら何かと面倒だ。
「多分、昔、誰かがいらなくて捨ててったオモチャだから、大丈夫だよ! 絶対ママに言うめよ!」
くぎを刺していたその時、母親が二人の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
綾音は慌ててふたつのオモチャを自分のピンク色のリックに詰め込むと、素早く弟にジャンバーを着させ、自分も上着を羽織ったのである。
母親の運転する車で帰宅後、綾音と辰巳は親の目を盗んでコッソリ洗面所でオモチャを再度キレイに洗った。タオルで拭くと、磨きがかかる。
子供部屋に戻り、ふたりはまじまじと車とカプセルを眺めた。いつ売られていたものかは知らないが、あまり見たことがないようなデザインタイプのオモチャであるのは確かだった。
早く遊びたいと辰巳が必死になって宇宙船クルーの入ったカプセルのふたを開けようとするが開かなかった。土台とふたの間に境界線が走っているから開く仕組みなのは明白なのだが。
開閉スイッチも見当たらないし、表も裏もネジ穴はない。綾音がマイナスドライバーで無理矢理こじ開けようともしたが、どうしても開かなかった。
遊び場のひとつにしている出窓に置き、どうしたものかとふたりは腕組みをした。
カプセルが太陽の光を反射して、キラキラと光り輝いている。まるで太陽光を吸収し内側に溜め込んでいるようで、長方形の箱全体が内側から輝いているように見え出した。
・・・ ピ・ピ・ピーッ ・・・ ピ・ピ ・・・・
「なんか、音しない?」綾音が耳を澄ました。辰巳がカプセルを指でつつく。「ネェネェ、これが鳴ってるよ? なんかスイッチ入れた?」知らない、と綾音は首を振った。
・・・ ピ・ピ・ピーッ ・・・ ピ・ピ ・・・・
音が強くなった。まるで目覚まし時計のアラームだ。
次の瞬間、「アッ!」とふたりは小さく声を上げた。どうしても開かなかったカプセルのふたが突然ひとりでに開いたからだ。
しかも、宇宙船クルーのフィギュアが中から飛び出し、出窓のすぐわきにある勉強机の上に置いていた戦闘車両の上にヒョイと立ったのである。
〔プロローグ・2021復活の日<後編>に、つづく〕
オープニング
これはミクロマンの、
長い長い物語の、あまたある物語のうちの、
ほんのひとつにしか過ぎない。
・
・
・
飛び出そう Big my heart
勇気は胸にあるから
大地を蹴りながら
何処までも行くよ ミクロマン
何の為なんだろう?
僕らが生まれてきたのは・・・
ココロの瞳で答えを探そう
小さなことでも
大事な意味ならあるんだね
怖がったりせずに
迷ったりせずに
いつも
「I can do」
夢は
「You can do」
平等に降り注いでくる
青空のように見上げれば
飛び出そう Big my heart
勇気は胸にあるから
未来を変えるのは
そうさ僕らなんだ
輝いて Big my soul
魂が踊るようにね
大地を蹴りながら
何処までも行くよ ミクロマン
はじめに・目次
作●学級新聞・編集長ーj
【はじめに】
この物語はかつてタカラ(現タカラトミー)から発売されていた“ミクロマン”と言うシリーズの玩具やそれらに与えられていた設定の一部を参考に、私が考え出した創作物語です。幼少時代から大好きだったミクロマン。自分の中で昔から今に至るまでに作っていたミクロマンが活躍する“脳内に暖めていた想像話”をひとまとめにして文章化できればと書き出した「僕の考えたオリジナルのミクロマンストーリー」なのです。
描かれる物語の設定は、本家に準拠しているところもあれば、矛盾しているところもあり、独自に付け加えた部分もある、というごちゃ混ぜ二次創作あるある準拠となっています。登場人物は想像上の人たちですし、実在する場所や出来事などがところどころ出て来るかも知れませんが、語られているすべてはフィクション、すべて架空のものであり、実在するそれらとは一切関係がありません。
2021年時点では、本家メーカーさんのミクロマンシリーズは長いお休み状態にありますが、自分も含め、いまだに根強いファンがおり、ファン活動を続けています。他のファンの方々同様、僕もミクロマン愛で、これからもずっとミクロマンを応援し続けていきたいと思っております。ので、タカラトミーさん、令和・新ミクロマンを企画、新発売してください、お願いします。(2021年12月吉日 学級新聞・編集長-j)
【目次】
第1部 “復活のミクロマン 編”
第2部 “チェンジ!ミクロ探偵団 編”
第11話・水石山に遺されたもの(仮題)
第12話(第2部最終話)・その名は、最狂戦士ゼノ(仮題)