ミクロマン -G線上のアリア-

これはミクロマンの、長い長い物語の、あまたある物語のうちの、ほんのひとつにしか過ぎない。

第5話・新Iwaki支部、始動!<part.3>

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ニュー・ビームトリプラーで砂浜やその上空を所狭しと飛び回り、着実に敵を打ち倒しているマイケル。ビークルは失ったものの、全身にアタッチメントベルトを施し携帯してきた様々な射撃武器で応戦するメイスン。二人は、着任したばかりの面々を守ることも決して忘れてはいない。

ミクロマン達の必死の抵抗により、先ほどよりも敵影は少なくなってきてはいた。だが、アクロ兵やアクロメカロボの数はまだそれなりにあり、油断できない状況であることに変わりはない。だから、まだ使えるはずの戦闘車両ミクロ・ワイルドザウルスをここで放棄するわけにはいかない、それは自殺行為だ、とマックスは思う。自ら戦力を減らすくらいなら、今のこの状況から脱する策をひねり出す方が得策なはずだ。

マックスの真下では、ヘルピオンのスコーピオン・ドリル・テイルが高速回転しており、機体をどんどん掘り進めている。あれこれと、のんびり考えている時間はなかった。

彼は操縦席の操作ディスプレイに指を伸ばす。タイヤでの物理走行が不可能なら反重力ジャンパーで勢いよく飛びあがり、無理矢理にでもモンスターを引き離せるのではと思いついたのだ。だが、そう考えた矢先、状態異常のアラームが鳴り響き、ディスプレイに警告画面が表示され愕然としてしまう。ジャンパー装置が今まさに行われているドリル攻撃で破壊されてしまったのだった。

どうする? フロントライトのビーム砲は前方にしか撃てないから、真下に位置する敵には攻撃不可能である。ましてや車体の両サイド、タイヤの外に突き出している近接武器スパイクホイールなど論外。

自分に活を入れるように、マックスは大きな独り言を口にした。「何とでもする!」操作ディスプレイパネルをタップ、機体真下の四隅に設置されている補助バーニア(本来であれば、山岳調査中に何らかの事情で飛行を必要とした時に飛び上がる為の補助的な飛行装置)がまだ起動することを確認すると、すぐさま点火したのだった。ミクロ・ガトリング砲をパージしたぶん機体は軽くなっていたが、代わりに真下から抱き着く重い巨大サソリのオマケがついてしまった為、ガトリング砲を搭載している以上に荷重が掛かっている。マックスはやぶれかぶれに、補助バーニアの出力を徐々に上げていったのだった。凄まじい噴射音がし、ミクロ・ワイルドザウルスが砂浜から空へとむけて少しずつであるが飛び上がり始める。

「無駄なあがきだ! バンパイザー、やつを止めろ!!」デモンブラックが叫ぶと、防風林の中に隠れていたコウモリ型アクロモンスター・量産型バンパイザーが現れ、戦闘車両に向かった。飛び上がってまだ間もない瞬間だ、勢いがついていないため、ミクロ・ワイルドザウルスはサソリに続いて、あっという間にコウモリにまでまとわりつかれてしまう。重みから地面に引き戻されるように、ガクンと下がり出す車体。

だが、マックスはあきらめない。補助バーニアの出力をどんどん上げ、最後はレッドゾーンにまで届く最大値までアップさせた。すると、なんという底力だろう! ミクロ・ワイルドザウルスは二体の巨体モンスターを連れたまま、一直線に空高く飛び上がったのである。

 

マックスには考えがあった。操縦桿を握りしめ、潮見台屋上にミクロ・ワイルドザウルスを飛ばす。弧を描いて飛んで行く戦闘車両は、すぐに潮見台にたどり着いた。マックスは愛車をそのまま、先ほどメイスンがいた鉄製の落下防止柵の柱と柱の間に飛び込ませる。柵の隙間は、車体の全幅よりほんの少し広いだけ。そこに飛び込んだのだ。余計なお荷物である二体の量産型アクロモンスターは柱に行く手を阻まれ、鉄柱を歪ませながら落下防止柵に引っかかる形でミクロ・ワイルドザウルスから引き離されたのであった。

肝心のミクロ・ワイルドザウルスはと言えば、敵を振り払ったものの、勢い余って屋上展望スペースの反対側の柵まで飛んで行き、激突! バウンドして空中を回転しながら柵の外に飛び出してしまう。だが、機転を利かせたマックスの瞬間的な判断力と操作により、潮見台の砲身のように飛び出ている展望ポイント通路の真上、屋根状に張り巡らせてある柱にうまく着地、下に見える海に落ちずに済んだのであった。

 

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潮見台、展望ポイント

冷や汗ものだったが、自ら課した言葉通り何とかしたマックス。ホッとしたのも束の間、画面からまた警告音が鳴り出し、補助バーニア4つとフロントのビーム砲装置が先の激突から異常を起こし使用不可になったことを知った。

バサリ・・・バサリ・・・バサリ、と、大きな翼を羽ばたかせる音が、飛び込んできた柵の向こうから聞こえてくる。「一難去ってまた一難」マックスはぼやいた。空の上に、黒い上半身には巨大なコウモリの翼、ピンク色の下半身にはサソリの長い尻尾を持つ、まさしく誰もが想像するようなデビルの姿をした奇怪な巨大モンスター・ロボットが現れたのだ。その右肩には、砂浜にいた黒いデモンタイプ・アクロイヤーが仁王立ちでとまっている。彼の愛車に先程までしがみ付いていた二体のアクロモンスターが、追いかけてきたデモンブラックの命令で合体、巨大な悪魔の姿をした人型ロボットとなり、マックスの命を狙って再び襲い掛かろうとしていたのであった。

 

――ミクロマン達は全員、三崎公園に行っており、この前みたいに助けには来てくれない。自分のことは自分で守るしかないのだ。相手は妖怪でもお化けでもない、機械人形なのである。怖い気持ちがないと言ったらウソになるが、正体を知った今となっては、この間のような震えあがるまでの恐怖には至らずにいた。おかしなものだが、“得体が知れてる相手”なら「なんとか出来るかもしれない」という、変に希望めいた気持ちが湧いてくる部分もあった。綾音は覚悟を決めると、手にしていた薄紫色のピアニカケースを両手で構えた。

なんとか逃げ出すチャンスを作らなくては、と、綾音は元いた遊歩道へ向けて後退りをする。

緑色のアクロモンスター・イグナイトは、綾音との間合いを狭めようと、一歩一歩、着実に前進してきた。綾音は見た目からして、相手の動きがもしかしてトロいのではないかと推測、思い切ってピアニカケースをロボットイグアナに向けて投げつける。さすが大好きなドッヂボールでならした腕だ。ケースはイグナイトに向け一直線に飛んで行った。しかし、イグナイトは信じられないほどの瞬発力で高く跳躍。少女の頭上を余裕で通り越し、その背中側にある芝生に着地したのである。驚き振り返る綾音は、逆にイグナイトがもといた方、大木や植木が密集してて身動きが取れない方へと後退りすることになってしまった。退路を奪われてしまったのである。

「まずい・・・」どうしていいか分からなくなる綾音を冷たい目で見つめるイグナイト。モンスターの双眸が、黄色くボンヤリと輝きだし、すぐにボワンボワンと光が強くなったり弱くなったりを繰り返しだした。山の神社の時と同じだ。綾音に戦慄が走った。

 

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――「ねぇ、ヘルパイザー? ミクロマンの車もだいぶ壊れてしまったみたいだし、あれじゃあもう役に立ちそうもないよねぇ? 逃げ場もないみたいだし、あいつはどうするんだろうねぇ?」デモンブラックが、わざとらしく悪魔ロボットに話しかける。マックスにも聞こえるように、だ。恐怖を煽り立てようとしているのか、はたまた馬鹿にしているのか。

しかし、意味合いがどうあれ、デモンブラックの言っていることに間違いはなかった。ミクロ・ワイルドザウルスは大破、戦闘機能をすべて失っていると言ってよい。車を放棄して逃走しようにも、足元は何もない空間ばかりが広がる展望ポイントで、後ろは断崖絶壁、周囲は海ばかり。隠れたり、逃げ込むような場所がない。自身の身に宿る、超能力の反重力ジャンパー能力により飛んで逃げたとしても、ヘルパイザーと呼ばれた悪魔型ロボが瞬時に襲い掛かってくるか、デモンタイプが例の右手の爆裂光弾で狙い撃ちしてくることだろう。

バンパイザーかヘルピオンのみ、もしくはデモンタイプ単体のみが相手と言う状況なら、この間のバンパイザー戦のように一人でもなんとかなるかも知れない。しかし、今アクロモンスターどもは合体してエネルギーとパワーを上げた人型に変化しているし、そばに指揮官クラスのアクロイヤーまでいるときてる。さすがのマックスでも分が悪かった。チラリと砂浜の方を見たが、まだ戦いは続いており、連絡したところですぐ援護は受けれそうにもない。

黄色いミクロマンの心情を察し、デモンブラックは嘲笑したのだった。

 

――イグナイトの催眠光線を目の当たりにして、綾音の意識は段々と朦朧として来ていた。こんな風にされているうちに、もうすぐ何も分からなくなって、自分はどこかに連れ去られてしまうのだ。多分、普通の子供である自分は、アクロイヤーの探している目的の子供なんかではないから、すぐに解放されると思う。でも、こんな風にわけを分からなくされて好き勝手にされるのは、やはり凄く嫌だった。今まで被害を受けた子供たちも、記憶を消されたからと言って、何の問題もなくその後、生活しているわけではないはずだ、と綾音は思う。“記憶が無くなったという経験”を消せずに、どこか心にシコリをもって生きているはずなのだ。LINE友の陽斗に相談してきた奈月が、まさしくそうだったではないか。自分もそうなるのは嫌だ、と、綾音は消えかかる意識の中で思ったのだった。悪魔の神隠しなんかには遭いたくない・・・!

「誰か・・・助けに来て・・・」綾音は残る意識の力を振り絞り、心の中で叫んだ。

「分かった。いま助けに行く」声ではない、何者かの“意識”のようなものが、ハッキリと綾音の脳内に届き、響いた。驚き、朦朧としてきていた綾音の意識が再覚醒する。

 

――「マックス! 聞こえるか! そのまま走り出して、海に向かって跳ぶのである!」新型通信機から、アイザックの叫び声がした。下の仲間もマックスのピンチに気が付いていたのである。先程とは逆の立場だった。彼らがマックスを信じて崖下に逃げたように、マックスはアイザックを信じて指示に従い、ミクロ・ワイルドザウルスのアクセルを踏み込んだ。展望ポイントの格子状屋根を激走する大破した戦闘車両。ヘルパイザーがすぐさま、巨大な両翼を羽ばたかせて追いかけ出す。

展望ポイントの長さは15mほど。あっという間に端の方に到達しそうになる。「跳んだ後、どうする⁈」マックスの通信に、メカニックマン・アイザックが、手首に着けた通信機に大声で答えた。「遠くに向かって跳ぶのだ! そして飛び移るのである! 持ってきたのだ、マシーンを! マックス、君のマシーンを、だッ!! それに飛び移れーーーッ!!」

マックスは、言葉の真意が読み取れなかった。指令基地に届いていた先の連絡では、マシーンを搬送してくると言う話はなかったからだ。

それもそのはず、マックス達は知らずにいたが、実は昨日遅く、たまたま過去の記録を再確認していた本部が、旧Iwaki支部が壊滅したあと、支部から本部倉庫に運び込み、修理したもののずっと眠らせていたあるマシーンが存在していることに気が付き、それをアイザックたちに託したのである。万が一を考え、メカニックマン・アイザックが徹夜でマシーンの再チェックを行い、万端な状態での搬送となっていた。頻繁に通信を行い、アクロイヤーに怪しまれ傍受されることを恐れた本部が、マックス達には知らせずにいた為、いわきの面々はそのことを知らなかったのである。

指示通り、猛スピードを出してミクロ・ワイルドザウルスを、展望ポイントの端から、高く、遠く、ジャンプさせる黄色いミクロマン

目にもとまらぬ早業で、レッドパワーズスーツの左腕前腕部に組み込まれているコンピュータを操作、アイザックは富士山麓本部から搬送してきた“シークレット・ミクロサブマリン・コンテナ”を緊急浮上させ、ロケットのように水面から空に向かって打ち出した。外見は4リットルサイズの日本酒ペットボトルで、見た目は偽装して透明である。ペットボトルに偽装したコンテナ潜水艦は底の方からジェット噴射、飛んでいく途中で外装に幾つもの亀裂が走り、本体がバラバラになる形で徐々に分解して行った。コンテナの中に搭載されていたマシーン自体が今度はジェット噴射を行い、落ちてくるミクロ・ワイルドザウルスの方へと向かう。

 

「あれは・・・!!」自分に向かって飛んでくるそれを、マックスはハッキリと目視した。

輝く銀色の頭部(内部には、搭乗者の思考を読み取り即座に動きに反映するヘルブレーンを搭載)。

赤い色をした逞しく厚い胸(中央には透明キャノピーが取り付けられた操縦席と、その両側には必殺武器の光子波光線発射口)。

腹部に巨大なVの文字がレリーフされた白く頑丈な腰(エネルギータンクが納められ、両腰にはマッハ5の速度で飛行できるマッハ・ブースターを装備)。

ショベルカー重機を模した白い両腕(肩を軸として高速回転し、相手を攻撃するマシン・パンチ・フラッシュを行うことが可能で、その両手はダイヤモンドをも軽々と握りつぶすクラッシュ・ハンド)。

大地を踏み締め安定して立つことができる青く巨大な両脚(腰同様マッハ・ブースターを足裏に装備、状況に応じ膝から分離させて乗り物にも変化可能)。

そして、両肩に記された、忘れもしない“23”の機体番号。そう、間違いない。あれこそは、マックスがIwaki支部で長年に渡り搭乗し、どのような時も一緒に戦い続けてきた、愛機・高性能万能型ロボットーー“ロボットマン”だったのである!!

マックスはミクロ・ワイルドザウルスの操縦席から立ち上がると、今度は自分がロボットマンに向けて、跳んだ。操縦席である、胸のコクピットを目指して。

 

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これらのことは、ほんの一瞬の出来事である。だが、デモンブラックは瞬間的に状況を分析、「ロボットマンに乗せるなッ!!」ヘルパイザーに命令を下し、急いで攻撃に移らせようとしたのだった。

しかし、時すでに遅し。「パワードーム・オープン! ロボットマン、イン!!」搭乗コマンドを叫ぶマックス。ロボットマンのコンピュータは、古くから搭乗者としてインプットされてるマックスの声紋とコマンドを感知。胸にある操縦席の巨大なキャノピーを開き、そこから一条の光の束を放ちマックスを包み込むと、その光の束を引き寄せ、彼をコクピットに導き入れたのだった。マックスが内部に取り込まれた瞬間、コクピット内のディスプレイや計器類が次々に動き出し、完全起動したロボットマンの両目が眩しく光り輝く。

両腕をクロスし、次に右腕を天に向けて突き出す、超高性能万能型ロボット。

「動くぞ、この両腕が! 動くぞ、この両脚が! 僕は再び、ロボットマン・マックスとなったのだーーーッ!!」ロボットマンの口が開き、搭乗者であるマックスの雄たけびが空に轟くと、ミクロマンのシンボルでもある巨大なロボットは、ヘルパイザーに向かい突撃していったのだった。

 

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ロボットマン(初代)

――目で追うことが不可能とも思えるスピードで、クルクルと回転する水色のブーメラン状の投擲武器がイグナイトをかすめて行き、飛んできた方向に戻っていく。次の瞬間、イグナイトの背中がパックリと割れ、開いた場所から火花がほとばしりだした。

「?! ?! ?!」事態がよくわからないまま、火花に驚き綾音は尻もちをついてしまう。

少女を守るようにして、身長30cmほどの青い大きな人型の物体が、空より降り立った。ボディの上半身は猛禽類を模した形状をしている。両手には巨大なビーム・ガンのような銃器を携えており、その銃身の中央にはブーメランと思わしき投擲武器もセットされていた。いま飛んで来たブーメランだ。どこからどうみても、それは様々な武器を搭載した戦闘型ロボットであった。

綾音はこの間、ミクロマン達の話に出てきた第三勢力の存在、青いロボットのことを思い出す。そうだ、指令基地のメインスクリーンに映し出された画像でも見た“あれ”が、いま目の前にいる“それ”なのだ。

青いロボットは銃器を構えると、容赦なくビーム光を、背中が割れ苦しむイグナイトに連射で雨あられと浴びせかけたのである。

 

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謎の青い戦闘型ロボット

――ロボットマンの突撃は、悪魔ロボを後ろに吹き飛ばした。すんでのところで危機を察知したデモンブラックはとっさに離れて事なきを得、背中から悪魔の翼を模したウィング装置を展開させると潮見台に後退する。驚き怯む悪魔ロボに再びマッハのスピードで飛行し接敵すると、ロボットマンは「マシン・パンチ・フラッシュ!」と叫び、両腕を高速回転させて、何十、何百回と言う連続パンチを繰り出したのであった。あまりの威力に成すすべもなく殴られ続けるヘルパイザー。

 

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女性デモンは、想定していなかったこの展開を見て、まずい状況になったと舌打ちをした。ミクロマシーンならまだしも、アクロイヤーがその高性能の戦闘能力を長年恐れ続けているロボットマンが出現してしまったのである。眼下の砂浜にいる配下のアクロ兵団も、確認するといつの間やら10分の1程にその数が減少してしまっていた。まったくもって不利である。皆殺し、もしくは一人でも多くのミクロマンを抹殺するはずが、逆に自分の身が危険にさらされようとしているのだ。

目の前では、ついにヘルパイザーの両腕が破壊され、次に胸の装甲版がロボットマンのクラッシュ・ハンドで剝ぎ取られたところだ。ヘルパイザーは機械の絶叫を上げている。

「強いな、黄色いミクロマン! 貴様はいったい何者なんだい⁈」デモンブラックの、負け惜しみの混じった問いかけに、マックスは敢然と答えたのであった。

「名前は、マックス! 411の地獄でいったん死んだが、こうしてお前たちアクロイヤーを倒すために甦ってきた男だ!! ・・・光子波光線、発、射ーッ!!」ミクロマンが叫ぶと、ロボットマンの両胸の光線発射口から、二本の黄金色の光の束が一直線にヘルパイザーに伸びていき、一瞬にして大ダメージを悪魔ロボに与える。ヘルパイザーはその全身から火花をほとばしらせ、ついには轟音と共に爆散したのであった。

「気に入ったぞ、マックス! 私はアクロイヤーいわき侵略軍幹部の一人、デモンブラックだ! また会おうぞ!」デモンブラックの背中の翼がぐるりと彼女を取り囲むと、その姿が空中に吸い込まれ、黒い悪魔はその姿を消したのであった・・・。

マックスが眼下の砂浜を見ると、アクロ兵団を壊滅させた仲間たちが彼に手を振っていた。全員、生き残っている。マックスもコクピット内で右手を上げると、ロボットマンを砂浜へと向かわせたのだった。

 

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――高速で連射されるビーム光が、あっという間にイグナイトの外部装甲を粉々に砕いていく。信じられないほど強力な破壊力を持つ銃のようだ。青いロボは頃合いを見て引き金を引くのをやめた。半分以上、装甲が剥がれ落ちたモンスターは、内部メカが剝き出しになっており、怖いと言うよりも、ポンコツロボット然とした滑稽な姿をさらしているように見える。

青いロボは銃器を背中のハードポイントにマウントさせると素手になった。右手の4本の指を自分に向けて何度か曲げ、敵にこちらに来てみろと指図する。

ボロボロのイグナイトは瀕死のダメージを受けているのは誰の目から見ても明らかで、もう戦えないはずだった。だが、怒り狂い、「グルルルル・・・!」と恐ろし気に唸り声を上げると、最後の力を振り絞って、青いロボに飛び掛かった。

青いロボは右手でイグナイトの頭を受け止めると、軽くその動きを制した。慌てて四肢と尻尾をばたつかせて逃れようとする爬虫類ロボ。尻尾を鞭のようにしならせ、青いロボットをぶつが、相手は一切動じない。

青い戦闘型ロボットは容赦なく、右手は頭を掴んだまま、左手をモンスターの口に突っ込み下顎を鷲掴みにする。すると勢いよく両腕を広げ、あっという間にイグナイトの頭部を口から真っ二つに引き裂いてしまったのだった。更には右手に掴んだままのイグナイトを軽々と持ち上げ、四肢をばたつかせ続けるのをまったく無視、左手を手刀にしてすごい勢いでモンスターの胸に突き入れる。内部からエンジン心臓部を掴み引き抜きだし、目の前で握りつぶしてみせた。

四肢をだらんとさせ、完全に沈黙するイグナイト。青いロボは興味を失ったかのように、イグナイトだったボロボロの機械の塊を投げ捨てたのであった。

 

綾音は呆然として成り行きを見守るだけであった。何という圧倒的な強さだ。降り立った場所からほとんど動かないまま勝負を決めてしまったではないか。

青いロボはチラリとだけ綾音を見、安否を確認すると、その場を去ろうとする。「ちょっと待って!」呼び止める少女に、ロボットが振り返った。

 

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「助けてくれて、ありがとう!」綾音が感謝の言葉を告げるが、ロボットは何も反応を示さなかった。「あなたはミクロマンなの? それともアクロイヤー? 中に誰か乗っているんでしょう・・・?」ロボットは何も答えようとはしない。

ピクリとも動かない青いロボに、綾音は不思議な感覚を覚えた。決して恐ろしいとか怖いとか、そういう感じがしないのだ。悪意が何もない。このロボットは大丈夫だと言う安心感めいたものすら感じ取れたのであった。あの恐ろしく容赦がない戦いぶりを見せたのがウソのように、優しい何かを醸し出している・・・と、少女は思った。

綾音は、己の直観があることを告げたのを知った。「ああ、そうか! 分かった! あなただね、水石山の基地の中で私のことを見てたの! 同じ気配がするもん!」この時、黙っているロボットの意識が一瞬だけピクリと反応を示したのを綾音は敏感に感じ取った。「でしょ⁈ やっぱり!! 私、綾音っていうの。あなた、名前は・・・?」

図星だったようだ。ロボットが戸惑いを見せ始めている。どう出て来るのだろうと綾音が黙っていると、しばし間をおいてから、青いロボットが右の手のひらをそっと綾音に差し出して見せてきたのであった。真意はつかみ取れなかった。何を表現しているのか? 挨拶? 握手?

「・・・」先刻、脳裏に飛んで来た何者かの意識が、再び感じ取られた。声ではない。男性なのか女性なのか分からないが、とにかく“意識”なのだ。それが、このロボット自体か、中にいるかもしれない誰かなのかまでは判別つかないが、このロボットから発せられたことが分かる。だが、先ほどとは違い、どうしてだか綾音はうまくその意識をとらえることができなかったのだった。先程は朦朧としていた上に無我夢中だったので、偶然に感じ取れたのかもしれない、と綾音は思う。

「あの・・・えっと・・・」綾音が困っていると、それを見かねてだろう、ロボットは綾音を見据えて、ついに口をきいたのだった。男性でも女性でもない機械の合成音声で、こうしっかりと口にしたのである。

「“ア・リ・ア”」と。

ロボットはくるりと背を向けると宙に舞い上がり、あっという間に空の彼方に消え去って行ってしまった。「アリア・・・?」綾音は言葉を反芻しながら、呆然とそれを見送ることしかできなかったのであった。

“アリア”とは何だろう? あのロボットの名前なのか? もし中に誰かが乗っていたとするなら、操縦者の名前なのか? それともまったく思いもよらない何かを示す秘密のキーワードのようなものを教えてきたのであろうか? 綾音にはさっぱりわからなかったものである。

 

――その夜、磐城家の子供部屋に、戦いから無事に戻ったミクロマン達全員と、ミクロ化させてもらった綾音、辰巳の姿があった。それぞれ自己紹介をした後、青スーツのマイケルがふんぞり返りながらわざとらしく咳払いをひとつした。「あー、では、マックスのダンナ! リーダーからひと言お願いするぜ!」

マックスは一歩踏み出し、場にいるひとりひとりの顔を確認した。「本部からの指示もあり、新しく発足したIwaki支部・・・“新Iwaki支部”の当面のリーダーを務めることになったM123マイケルだ。メンバーはまだここにいる者ばかりで、規模としては小さい。だが、いわき市においてアクロイヤーの怪しげな作戦が実行されているのを知った今、まごまごしている暇はない。いわきと人間の子供たちを守る為、皆の力を貸してほしい」

アイザックが軽く手を上げる。「リーダー・マックス。この少ない人数で、これから我々が行おうとしていることは、かなり大変だと思うぞ?」

 

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マックスは、故マリオンがあの最後の別れ際に問いかけてきた場面と、この瞬間が重なった気がした。だから、心のどこかで悔いていたことを、――もう一度やり直したいんだ――と言う想いが溢れてきて、自然と次の言葉が出てきたのである。「・・・かも、知れない。でも、僕は“もう一度だけやってみよう”と思うんだ」そして再度、場にいる全員の顔を見、こう口にしたのだった。「大変なのは百も承知だ。でも、411の時とは違う。我々はひとりではない、みんながいる。どんなことがあったとしても、協力し合い、一致団結、平和を守る為の活動を始めようじゃないか!」

マックスをジッと見つめていたアイザックが、いきなり歯を出してニンマリとした笑顔になった。「リーダーの言う通りであ~る!」

場にいた全員が笑顔になり、拍手をしたのだった。

 

「ハイ、ハーイ、ハイハイ! 質問あるんですけどぉー。あのぉ、綾音ちゃんの部屋に基地があるって本部から聞いたんですが、どーこですかー?」ピンクのミクロスーツのアリスが期待の目で、中心に立つM12Xの三人を見た。「あれだ」無表情なメイスンが綾音の机の上の薄汚れた指令基地を指さす。

詳細は聞いておらず、立派な基地の姿を勝手に想像していたアリスは、愕然としたのだった。「え・・・? あ、あれって昔使われていたとか言う指令基地ってやつですよね? 小さなあれが、新Iwaki基地なの⁈ しょ、しょぼっ・・・」落胆の色を隠そうとしない幼い少女ミクロマン

「新人! おめー、バカ、このッ! 中古物件だが、あれがあるだけでも今のIwaki支部にとっちゃスゲェことなんだよぅ!」マイケルが声を荒げ、下唇を突き出す。

アイザックが左腕のコンピューターを操作しながら間に割って入った。「大丈夫。吾輩がそのうち、すごい秘密基地を建造してあげるのである! それまでは中古物件・指令基地と、今回搬送してきた吾輩の新発明・アルティメット整備工場システムで乗り切るのだ!」

発明家が全員にあれを見ろと、部屋の中央に置いていた、群青色のプラスチック製品ぽい質感をした、少し大きめの折りたたみ式収納BOX(100円ショップで見かけるような物)を指し示す。

彼のコンピューター操作の信号を感知したBOX達はフワリと空に浮かび上がると、パタパタと音を立てながら展開、それぞれ箱になると空中で見事に合体、巨大な建築物となって、そっと床に降りてきたのであった。見た目、簡素なプレハブっぽい雰囲気を醸し出した整備工場に見える。

「スッゲ、スッゲ! カッコい~!」興奮した辰巳が真っ先に工場に飛び込んでいく。

「辰巳くん、辰巳くん、待ってくださいよ~」それを追いかけるように、サーボマンのウェンディとアシモフが、幼児の面倒を見なくてはと追いかけた。

「プレハブですか・・・これまたショボい・・・」肩を落とすアリスの背中をマイケルが軽く叩く。「プレハブ学校、結構、結構、コケコッコー! 冬は寒くて、夏暑い! 楽しい思い出作りがいっぱいだー!」そしてメイスンと共にとっとと中に見学しに行ってしまったのであった。

「そういう思い出はいらんとですよ・・・」しょげた顔つきでトボトボ歩き出すアリス。

綾音がマックスを見上げた。「みんな行っちゃったよ! あたし達も行きましょう、隊長さん!」綾音に手を引かれ、マックスは「ああ、そうだな!」と言い、ふたりで仲間たちの元へと向かったのであった。

 

新しい仲間たちに囲まれ、マックスは心の中に、とても暖かいものが満ちて来るのを感じていた。

 

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ミクロマン・マックスと、ミクロ化した少女・綾音

――こうして、いわきの地に“ミクロマン・新Iwaki支部”が始動したのである。時に2021年2月、旧Iwaki支部が壊滅して約10年後のことであった。

邪悪なるアクロイヤーが探し求める子供とは、いったい何なのだろう。やつらは、その子供を探し出したら、どのような悪事を行おうと画策しているのだろうか・・・?

あの青い色をした戦闘型ロボットの正体も、不明のままだ。何者で、何を考えているのか。それに、ロボットが言い残した“アリア”とは何を指しているのだろうか・・・?

謎は尽きない。しかし、ミクロマン達は綾音や辰巳と共に、ミクロの世界から、いわきの平和をこれからもきっと守っていくことであろう。

行け、ミクロマン! 戦え、ミクロの戦士たち!

 

〔第1部・復活のミクロマン、完〕

 

 

※いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今回で、ひとまずの一区切り。

皆さんからのご感想、お待ちしていますね。