ミクロマン -G線上のアリア-

これはミクロマンの、長い長い物語の、あまたある物語のうちの、ほんのひとつにしか過ぎない。

第6話・承前、アリスの日常

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「ダン! ソロモン! カタパルトハッチを開きます!」アリスは、広い指令室内の壁一面を占める様々な情報が映し出された超巨大スクリーンを見る目をそのままに、手元のタッチパネル式キーボートを素早く操作した。それは基地内すべての機能を掌握、操作できるオール・コントロール・キーボードである。

彼女が今いる磐城家の屋根裏に建造された巨大・新Iwaki支部の中央指令室内は、張り詰めた空気に支配されていた。誰もが予想しない緊急事態が起きたのだ。

「磐城家にカモフラージュ・シールドを展開・・・外部への視覚情報を遮断成功。

磐城家のルーフ開閉します・・・ハッチオープン!

カタパルトデッキ、周辺空域全方向・・・オールグリーン!

問題ありません! 最初に移動基・・・」

「悪ぃ、お先に!」自慢のメタリックイエローの単車ハイパースピーダに跨るマスターミクロマン・ソロモンが、アリスのアナウンスを途中に、磐城家の屋根内部からせり出し展開されたカタパルトから猛スピードで飛び出した。

「ったく、マックスの野郎、俺達を差し置いて!」スパイマジシャン・ダンが誰に言うともなく声を荒げる。「スパイマジシャンチーム、移動基地も発進する!」バイクに続き、飛行機の形をした巨大な飛行要塞、青い色をした移動基地がカタパルトから勢いよく大空へと向かって発進した。

「お願い、みんな、マックを助けて・・・」アリスのそばにいる、ミクロ化した辰巳は心配のあまり不安が爆発、シートに座るアリスにしがみついた。「大丈夫、マックスさんは絶対に負けないわ!」そう口にするアリス自身も不安げな目で、後ろを振り返り、頼るように支部長タイタン・ヘラクレスを見た。だが、ヘラクレスは巨大スクリーンを睨め付け、無言のままだ。指令室内にいる面々を安心させたり、励ますような言葉ひとつもかけはしない。その態度こそが、彼の信条と、彼がいま思うところのすべてを物語っている。嫌と言うほど場にいる全員にそれが伝わったのだった。

「マックスは一人で片をつける気です・・・。ロボットマンの両肩には我々最強の武器、地海底ミサイル二基を装備させてありました・・・」表情がないはずのサーボマン・ウェンディの小さな両目が暗く沈んでいるように見える。

「あれは・・・⁈」アリスは愕然とした。指令室の超巨大スクリーンに、海面を押し分け、深く暗い海の底から徐々に空に向け浮上してくる、巨大な頭蓋骨を模したアクロイヤー戦闘移動要塞の全貌が映り始めたのだ。曲がりくねった二本の角が額に生えた、見る者すべてに恐怖を与えるような、おどろおどろしさを放つ悪魔の超要塞である。

いわき各地に飛ばしているミクロスパイドローンのカメラのひとつがキャッチしている映像なのだが、あの邪悪な要塞に、マックスは単身ロボットマンで向かったのだ。誰に断わることもなく。いわきの地を脅かし続けていたアクロイヤーと今まさに決着をつけるために。

「綾音・・・綾音はどうした⁈ 今どこにいるんだ⁈」ようやく口を開いた支部ヘラクレス。アリスは一瞬、言葉の意味が分からずに頭が真っ白になった。

「綾音・・・ちゃん? ああ・・・そうだ、あの子は、どうしているんだろう?」アリスも、少女がどうしているのか分からないでいる自分がいることを、その時、初めて自身で認識したのだった。

「聞いているんだ、アリス隊員! 綾音はどうしているんだ⁈ 所在は⁈」「え、え・・・えっと・・・!!」アリスは焦り出す。――綾音ちゃん。可愛くて、長い髪をしていて、いつも明るくて、正義感が強くて、ちょっと無鉄砲なじゃじゃ馬で、でも皆を思いやる気持ちが誰よりも強い、綾音ちゃん。新Iwaki基地のアイドル的存在で、みんな大好きな、綾音ちゃん。あの子、今どこにいるんだっけ? どうしたのだろう、全然思い出せないし、分からない。あんなにいつも傍にいたはずなのに。

「答えろ、アリス隊員!」

「あ・・・あの・・・」

「どうしたと言うんだ⁈」

 

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「どうしたんだ⁈ ・・・応答しろっつってんだよッ!!」ピンク色のミクロスーツを身にまとった、おかっぱ頭のアリスは、目の前の大型メインスクリーンから聞こえてくる、ガサツな大声に驚いて目を覚まし、体勢を崩して黒いシートからずり落ちてしまったのだった。

一瞬、何が何だか分からなくなり混乱するが、よく辺りを見回すと、異動してきてから約ひと月、もうだいぶ慣れてきたいつもの景色――女の子の部屋らしい、ぬいぐるみや電子ピアノが置かれている綾音の部屋の一角、彼女の机の上に置かれた古びた指令基地“ミクロマン新Iwaki支部”(仮)の大型メインスクリーンの前――であることに気が付く。

そうだ、自分は今日も暇な仕事の一部、外にパトロールに行っている仲間マイケルからの定期連絡を待ち、聞かされた内容の記録をつける仕事をしているところだったのだ。それが昼食の後と言うこともあり、暖房の利いた綾音の部屋で連絡を待っている間、ボーっとしているうちにうたた寝をしてしまっていたのである。

巨大・新Iwaki支部の出来事は、なぁんだ、夢の世界のことか・・・。

「新人、どこ行った! 聞いてるのかよッ⁈」床に座り込んでいるアリスの頭上、夢の世界に出てきた壁一面の大きさを誇る巨大スクリーンの足元にも及ばない、小さな小さなメインスクリーンから、変わらずがなり立てるマイケルの声がした。

「ハイ! ハイハイ、ハイ。聞いてます、聞いてますよ、マイケルさん」アリスは気を取り直すと、何食わぬ顔でシートに座り直す。

「おい、新人! なんか口によだれ付いてるんじゃねぇか⁈ まさか、おめぇ、昼寝してたんじゃねぇだろうなぁ~⁈」操縦席のカメラに顔面を近づけ、こちらを覗き込んでくる青いミクロスーツのマイケルを見て、顔を少し遠ざけるアリス。「そんなわけありません。勤務中ですし」最近、段々と彼が分かってきているアリスである。へたにこちらが不利になる様な発言をしたり、戸惑っている様子を見せると、尚わざとからかい半分に突っ込んでくるのだ。こういう時は、自然体で何事もないようにすませて見せるに限る。

「こちとら、この寒い中、屋根もドアもないニュー・ビームトリプラーでおんもをパトロールしてんだ。暖かい部屋は良いよなぁ~、ズルすんじゃねぇ~ぞ~」もう春は近いと言っても、まだ寒い3月の曇った寒空だ。彼の言うことに間違いはない。

「ハイ! 寒くて大変な中、本当にご苦労様です!」一応、社交辞令を棒読み台詞で返すアリスであった。

 

◆お姉ちゃんへの日記 2021年3月〇〇日◆

『青いミクロスーツのマイケルさんは、いつもこんな感じです。ガサツでデリカシーがないと言うか~(-_-;) でも、新Iwaki基地の中では何事に対しても一番パワーがあって、やる気満々、皆を引っ張っていくタイプだし、頼りにされてるんだよね。

・・・ところで、私がうたた寝した時に見た夢、なんだろうね? レスキュー隊員養成学校で検査を受けた時、予知能力的なものを持っている可能性があるとドクターに告げられたことがあります。自覚はありませーんv(^▽^)v でも、ドクターにそう言われるとさ、その後に起こることを前もってどこか似た内容で、夢の中に見たことが時々あった気がするような、しないような・・・? まぁ、今回のは“こんなスゴイ基地に勤められたらいいなぁ~と言う願望が夢に出たのかな”って思うことにしときます(((uдu*)ゥンゥン』

 

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アリスは夜、オフの時間になると、PCモードに変化させた愛用のモバイルブラスターを床(綾音の机の上)に広げ、自らも座り込み、キーボードを素早くタイピング。いつも書いている“お姉ちゃんへの日記”の今日のぶんをあっという間に書き終えたのであった。

机の上で作業したくとも、指令基地にデスクスペースはない。ミクロマン達は綾音の机の引き出しの中を仕切り板で区切り、区切った一角一角を各々の寝床(名前だけプライベートルームと皆は言っている)にしているような状況である。今のところ。このような始末だったので、アリスには一人くつろいで日記を書けるような空間がなかったのであった。

 

 

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――「あー、あのぉー。メイスンさん、メイスンさん?」ある日、アリスは赤いミクロスーツ姿のメイスンが、綾音のピアノの鍵盤の上に銃器を広げメンテナンスをしているところに声を掛けた。彼女なりにスキンシップを図ったのである。どうもこの男、ほとんど口を利かないので、知り合ってからひと月近くも経つのに、無口で銃器を扱うのが得意と言うこと以外、何もわからない。

「なんだ?」後方に立つアリスに振り返りもせず、黙々と銃器を布で磨くメイスンに苦笑いをする彼女。「うんと、えっと・・・武器のメンテ、よくされてますよねぇ?」

「自分で使うものだからな」やはり振り返りもせず、そう答えただけで、話を終えてしまう赤いミクロスーツの男。

「・・・・・・」この間、声を掛けた時もそうだった。こんな風に受け答えがイチイチ簡潔すぎるのだ。

「えーと、あの、この間のアクロイヤーとの戦いで、メイスンさんのマシーン、壊れちゃったじゃないですかぁ。これから、どうするんですか?」

「他所からどうにかして調達するつもりだ」返答だけボソリ。

「・・・・・・」待ってみても具体的な話には発展させてくれない。アリスは、どう続けていくかと困り出してしまった。前回はこの流れであっという間にトークが終了してしまったのである。そうだ、ここで引き下がっては元の木阿弥だ。よぉし、こうなったら、自分の方からどんどん話を膨らませないとダメだぞ、とアリスは覚悟を決める。

「調達ですか! じゃ、あの紫色のスーパージェット・ライトは?」

「折を見てアイザックが直すそうだ」

「結構、壊れ方が酷かったから、直すの大変そうですよね!」

「そうだな」

「うちの支部って、基地の資材どころか、まだまだマシーンに使う予備の部品やらなんちゃらも殆どないですよねぇ」

「だな」

「早く手に入れたいですよね」

「ああ」

「いろんなこと、これからどうなるんでしょうかねぇ?」

「どうなるんだろうな」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

これほど話が続かない相手と接したのは生まれて初めてである。この後、少し様子を窺ったが、メイスンはやはり黙ってしまい、何も話を続けてくれはしなかったのだった。トホホホホ。仕方ない、アリスは今回もあきらめようと、その場を去ろうと振り返る。その時のこと。

「アリス隊員」

「えッ⁈ なんですかぁ~!!(⋈◍>◡<◍)。✧♡」

「間違ってグリスぶちまけたから気を付けた方がいい」

足元が滑りやすくなっていることを知った時には、アリスは既にひっくり返っており、足元の鍵盤に勢いよく臀部を叩きつけ、綾音の部屋に「ソー♪」の音を響き渡らせてしまっていたのであった。Ω\ζ°)チーン

 

◆お姉ちゃんへの日記 2021年3月××日◆

『赤いミクロスーツのメイスンさんはいつもこんな感じです。滑らないよう注意してくれたし、悪い人ではないとは思いますが、今のとこ他はな~んも分かりません┐(-_-;)┌ヤレヤレ』

 

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この日もアリスはPCモードに変化させた愛用のモバイルブラスターを床(綾音の机の上)に広げ、地べたに座り込み、キーボードをタイピング。あまりにも語る内容がなさ過ぎることから、“お姉ちゃんへの日記”をものの3分で書き終えたのだった。

アリスは痛めた自分のおしりをさすった。

 

 

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――「いやぁ、大量、大量! 実に結構なことであ~る!」緑色のレッドパワーズ部隊仕様のミクロスーツを身にまとうアイザックが、アルティメット整備工場内に山となった大量のガラクタを前にして、嬉々として手を揉んでいる。

アリスはと言えば、旧Iwaki支部から運んできたポンコツの機材類を、ヒイコラ言いながらサーボマン・ウェンディの高所作業車から降ろしていたのだった。荷台代わりにされた作業車の上から、人型に変化したウェンディ、そして同じくサーボマンのアシモフも荷物を次々に降ろしているところだ。この日、アイザックの指示で、アリス他サーボマンの二体は、水石山の旧Iwaki支部を探索、まだ使えそうな機材類を新Iwaki支部に搬送する仕事を手伝わされていたのだった。

アイザックの説明によると、基地設備を広げ充実させるための様々な資材提供についても、新型メカの再導入についても、予定はまだ全然未定のまま、何の進展も見られそうにない、のだそうである。本部だけでなく、知り合いがいる他の基地にも連絡を入れ、マックス達はなんとかならないものかと交渉中でもあった。

事前の用意や再開スケジュールもへったくれもない、半ばこちらの面々が言い張って無理やり早急に始めてしまった新Iwaki支部である。それにアクロイヤーや青い戦闘型ロボットの動向もある。仮に資材や新しいメカを本部などからもらえることになり、搬入できる流れが生まれていたとしても、目立つ動きは出来ないことから、こっそりと徐々にしか運び込めないし、どの道すぐには発展できない状況でもあった。

これらの事情から、自分たちのことについては、しばらくは自分たち自身で、外部に目立たぬようコッソリと隠れつつ、なんとかしなくてはならない、という話である。それについては、仕方がないことだと誰も異論は唱えなかったものだ。

が、だがしかし。この目の前に広がる、役に立ちそうもないガラクタの山は一体なんなのだ。再利用して新Iwaki支部に役立てると言うことであるが、このとても資材とは思えないポンコツを、手が空いている者はこの間から、ちょくちょく少しずつ運ばされているのである。アリスは深いため息をついたのであった。少し前にメイスンの前で話題に出した資材の確保はどうなるのだろうかという心配話が、まさかこのような形で解決に向け動き出すとは。重いものを持ち、少し痛めた腰に手をやると、なんだか情けない気持ちがわいてくる気がしたのだった。

「腰さ大丈夫けぇ、アリス隊員?」透明な頭部から見える内部メカニックがチカチカと光る、いわき弁サーボマン・アシモフがいつの間にかアリスのそばに来ており、急に彼女のおしりを撫でた。

「キャッ!! どこ触ってんのよッ!!ヽ(`Д´)ノ」アリスは飛び上がる。「そこは腰じゃないでしょう⁉」アリスはアシモフを睨め付けた。アシモフは頭部のメカを光らせるだけで、何も答えない。すっとぼけている。

クンクンとアリスは周囲の匂いを嗅ぐ。ミクロ化し、そばのポンコツ類をオモチャ代わりにしている辰巳の身にした衣類から、強い柔軟剤の匂いがした。「これか・・・」アリスは何とも言えない表情になる。

基地内の様々なサポートを任せられているアシモフは、ミクロマンに忠実で礼儀ある超AI搭載のロボットだ。それがどうしたことかこのロボット、強い香料(洗剤、柔軟剤、匂い消し、香水等)を検知すると電子頭脳がまるで酔ったようになり、酔っ払いのごとく言動がおかしくなるのだ。特に女性に対してこのようなセクハラ行為を行ったり、求婚発言を見せたりして周囲を困惑させる。アイザックが調べてもどうしてか原因不明とのことであった。なので、現状、この新Iwaki支部にいる女性はアリスと綾音だけということもあり、特にいつもそばにいるアリスがそのターゲットにされてしまうのであった。

 

「ねぇねぇ、アイザック?」「なんであるか?」

「これってアクロイヤーの手下や悪いロボットなんでしょう?」「そうである」

「怖いねぇ~、動かないの?」「大丈夫、壊れているからなんともないのだ~」

アクロ兵の取れてしまっている手のパーツで、TV放映で観たアダムスファミリーのマネごっこをして遊んでいた辰巳が心配してアイザックに尋ねたのも、わかる気がする。アリスはガラクタの山の一部に集められた、ここ最近の戦いで新Iwaki支部の面々が倒したアクロイヤーのメカ類を眺めた。

「これ、罠が仕掛けられていて、急にゾンビみたいになって、ここで暴れ出すとかないですよねぇ~・・・?」少し声を震わせながら、アリスもまたアイザックに質問する。

「大・丈・夫!! アリスくん、心配ご無用だ。これを見たまえ!!」アイザックは大きめの牛乳瓶のようなガラス容器を手にした。中には自然光に反射する、煌めく細かい青い砂(?)のようなものが大量に詰まっている。「これは吾輩が発明した、ミクロクリーンナノマシン。倒し、活動を停止したアクロイヤーのメカに振り撒くことで、我々に害をなす、例えばアクロ・プログラム、発信器、盗聴器、時限爆弾、仕掛けられたトラップ等々を、種類問わずに瞬時に調査、発見、即・完全無効果し、安全でクリーンな機械部品にしてしまうと言う素晴らしい発明なのだよッ!! ここに運ぶ前に、既にこれをフリカケふりふりしてあるのだッ!!」

自画自賛、唾を飛ばしながら自慢げに説明するアイザックをポカーンとして見つめるアリス。

「我々は今、少しでも多くの役に立つような機材類が必要だ。譲ってもらうよう他の土地の仲間と交渉するのも大切だが、まごまごしている暇はない。現地調達と言うのも手段のひとつなのである。なので、旧Iwaki支部に残されている物は勿論、こうして倒したアクロイヤーのメカも完全許容範囲内! 回収するのだ。アクロイヤーの物は我々の物、我々の物は我々の物なのだ!! プリーズ、プリーズ、どんどん回収するのである!! イッ・ヒッ・ヒッ・ヒッ・ヒ~ッ!!」

悪のマッドサイエンティストのように、低く不気味に笑い出すアイザックに、ドン引きするアリスであった。

 

◆お姉ちゃんへの日記 2021年3月△△日◆

『科学者のアイザックさんは、常に基地設備のことや、アクロイヤーへの対策を考えてくれている人です。セクハラサーボマン・アシモフや、働き者の目が可愛いウェンディと共に、マックスさんの壊れた車両の修理をしてくれてもいます。いつも何かを考えていて、一人でぶつぶつ言ったり、時にニヤニヤしたりもする、かなり奇人変人っぽいところがありますが、悪い人ではないと思います(((uдu*)ゥンゥン・・・多分・・・』

 

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この日も変わらずアリスは、PCモードに変化させた愛用のモバイルブラスターを床(綾音の机の上)に広げ、地べたに座り込み、“お姉ちゃんへの日記”を書く為にキーボードを叩く。痛みがひけたおしりに、机の表面の冷たさを感じながら。

 

 

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――「ねぇ~ん、相談があるのぉ~、マックスぅ~ん♡」綾音の部屋の隅に置かれたアルティメット整備工場の中央メインスペースにて、サーボマン・ウェンディの手伝いをしながら、廃車寸前のミクロ・ワイルドザウルスの修理に勤しむ黄色いミクロスーツのマックス。そんな彼を見下ろしながら、綾音が甘えた猫なで声をかけた。ピアノ教室から帰宅して直後のことである。

「ダメだ」何も聞かせられていないのに、いきなり断るマックスに綾音は豹変、ドスが利いた声で「まだ、なんも言ってないじゃん!」と怒りを露わにした。

ウェンディとマックスのそばで修理の様子を見学していたアリスは苦笑する。綾音は以前から聞かせられていたマックスの愛機ロボットマンが部屋にやってきてからと言うもの、興味津々、やたらとロボットマンについて色々と尋ねてきていた。マックスやアイザックは面白がって機能面なども含めて詳細に説明していたのだが、それが綾音のロボットマン熱をヒートアップさせてしまうきっかけになったようで、そのうちになんと彼女、「ロボットマンをあたしに頂戴! それか貸してよ!」とまで言うようになり始めてしまったのである。「これは新Iwaki支部にとって最大の戦力なんだ。そもそもオモチャではないので貸し出しできるものではない」とマックスは毅然とした態度で断ったのだが、それで大人しく引き下がる綾音ではない。折を見て、ロボットマンを手にしてはあちこち眺めたり、再度マックスに譲渡交渉を繰り返していたのだった。勿論、今回の目的も、明らかにそれの様子である。

狭い整備工場内を最大限に有効活用する為、現状、特に修理等の必要のないロボットマンは工場の外側に置かれていたのだが、綾音はうっとりした面持ちでロボットマンを両手で持ち上げると、自分の胸元に抱き寄せたのだった。「なんか知らんけど、この程よい大きさと言い、見たことないデザインと言い、ビビビビーンときちゃうんだよねぇ。このツルツルの丸い頭ちゃんも、めっちゃ可愛いの!」チュッ、チュッ、チュッ、と、綾音はロボットマンの頭部に何度も軽くキスをする。

「好きになってもらって、ロボットマンも嬉しそうにしていますね」サーボマン・ウェンディが綾音を見上げながら言うと、「そんなことあるわけない。ロボットマンはAIを搭載した自律型ではないし、パイロットの指令だけを読み取って動くロボットだからね。好かれていることを感じ取ったりなんてしないんだ」と大真面目にマックスが答えた。

「マックスさんて本当に真面目ですよね」アリスは彼に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で感想を口にする。マックスは真面目なのはいいのだが、面白みがない男なのだ。

「AIが搭載されている・いないに関わらず、メカにも、愛情をもって接してもらえているのかいないのかを感じ取る何かはあるのではないか、と私は思います」小さな両目が可愛らしいサーボマン・ウェンディの言葉に、マックスは何とも言えないような複雑な顔をして黙り込んでしまったのであった。

 

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「ただいまなのであ~る。お、綾音、ピアノ教室から帰ってきたのであるな。ちょうど良かったのだ!」綾音の部屋の窓がガラリと開いて、そこから一羽の赤い色をした鳥型メカと、黒と青の二体のネコ科動物を模したメカが入ってきて、出窓で立ち止まった。鳥型にはアイザックが跨って乗っかっている。

「え、なになに⁈ この動物ロボは⁈」即、新しい客人に綾音は興味を示し、ロボットマンを抱きかかえたまま出窓に向かった。いずれも初めて見るマシーンだ。鳥型は鳩ぐらい、ネコ科型は幼い子猫ぐらいの大きさである。

「この三体はミクロマンの仲間、マグネアニマルと言う。鳥はハリケンバード、黒いのはマグネジャガー、青いのはマグネクーガー。超AIを搭載した、動物型のスーパーロボだ。ここだけの話、某所にいたところをヘッドハンティングして来てもらうことにしたのだ。正規ルートを通していたら、話にならない。彼ら、先程ようやく追っ手(?)を逃れていわきに到着したのである。本部や他の基地には内緒であるぞ⁈」

「ヘッドハン・・・何それ? よくわからんけど、スゴイじゃん! 仲間が増えて良かったね!」

「ウム。それで、皆とも先に相談していたのだが、これらを綾音、キミの護衛に付けようと思うのだ」

「護衛⁈ 守ってくれるって言うこと⁈」驚いたように目を真ん丸にする少女に、アイザックは大きく頷いた。

「その通りだ。キミはこれまでアクロイヤーと数回にわたり遭遇、危険な目に遭っているし、今後も何かに巻き込まれないとも限らない。いや、我々の仲間である以上、何かに巻き込まれることは覚悟してくれ。何かあった場合、その都度、我々が救助に行ければよいが、前回のようにそれが可能とも限らない。だからこその護衛なのだよ」

「護衛ができれば、ロボットマンは必要ないだろう?」いつの間にやら工場の出入り口から顔を覗かせ、話を聞いていたマックスがボソリと言う。

それを聞いて、綾音は眉間にしわを寄せ、ロボットマンとマグネアニマルを天秤にかけているような、悩ましい顔になった。

 

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「もうひとつ君にあげるモノがあるのだ。綾音、机の一番大きな引き出しを開けてみてくれなのである!」綾音はアイザックに言われた通り、自分の学習机の引き出しを開ける。すると中に、見たこともない黒いデジタル腕時計がしまわれているのに目が留まった。本体表面の上半分にはデジタルディスプレイが、下半分には銀色のプレートがはめられていて、そこには古代エジプトの鷲の様なマークが刻印されている。女子小学生向けなデザインではないが、TVで観ている大好きな変身ヒーローが身につけていそうな物で、綾音は率直にカッコイイと感じたのであった。

「これは?」

「吾輩が作ったミクロウオッチである。一見すると単なるデジタル腕時計だが、通信機能が搭載されていて、いつでも我々と交信が可能だ」

「へぇ・・・!」

「それだけではない! もうひとつ、すごい秘密が隠されているのだ!」

「何なに⁈」

「これを腕に付けた状態で、“ミクロ・チェンジ!”とコマンドを口にすれば、キミはミクロ化することが出来る。もう一度唱えれば、元の大きさにも戻れる。しかも、ミクロ化している間は、アクロイヤーに正体がバレないよう、カモフラージュ・シールド機能が自動的に身体に展開、キミを別人、ミクロマンのひとりに見えるようにもしてくれる優れモノなのだ。このメカは綾音、キミの生体反応と声紋にしか反応しない作りになっている、まさしく君の為に用意された、キミだけが使える、キミ専用のスーパーメカニック腕時計なのであるッ!!」

綾音は大きな目をキラキラと輝かせる。「す・ご・い! 信じられない・・・! こんなカッコイイ腕時計をありがとう!」

工場の方から再びマックスが声を掛けた。「これでいちいち僕がいないとミクロ化できない、と言うことはなくなるわけだ。どうしてもミクロ化する必要ができた時にだけ使うんだよ。ただ、使用回数に制限がある。エネルギーが切れたらチャージする必要もあるんだ。だから、乱用はダメだからね」

綾音はマックスに振り返り、笑みをもらした。「ありがとう、マックス。仲間として、あたしのこと色々と考えてくれていたんだね!」それを聞いてマックスも笑顔になる。しかし。「でも、ロボットマンの件と、この時計やアニマルのことは別だよ!」それを聞いて、マックスは思わず体勢を崩してひっくり返ってしまったのであった。

 

綾音を含むミクロマン達の更なる話し合いにより、黒いマグネジャガーは常に綾音の護衛に、青いマグネクーガーは万が一を考えて常に辰巳の護衛に付くことになった。

ハリケンバードについては、空から子供たちの守りに、あとはいわき上空のパトロールを兼務させられることとなったものだ。

アイザックの話では、ひと目に付くような時には彼(?)らもその体にカモフラージュ・シールドが展開、普通の鳥や子猫に偽装するとのことであった。

 

この日も変わらずアリスは、綾音の机の上で“お姉ちゃんへの日記”を書こうとモバイルブラスターを広げようとする。その時、母親の迎えで保育所から帰ってきた辰巳が部屋に飛び込んできた。母親の用事と、スーパーでの買い出しもあり、いつもの帰宅時間よりも遅くなったようで、時計は既に19時を回っている。

辰巳は唐突に、手の中の物をアリスに差し出してきたのであった。「これ、ママに買ってもらったの。アリスお姉ちゃんにあげるね」それは、100円ショップで売られていた、ミニチュアの学校机とイスのセットであった。「え、いいの⁈」「うん。だってアリスお姉ちゃん、お仕事するのに机なくて大変だなぁって、いつも思ってたの。これがあれば便利でしょう⁈」

アリスはこんな幼い辰巳が気を使ってくれたことが、その優しさがあまりにも嬉しくて涙が溢れてきたのであった。「ありがとう・・・! 辰巳くん、本当にありがとう! お姉ちゃん、お仕事がんばるからね!」

幼い辰巳は満面の笑みで、優しくアリスを見つめていたのだった。

 

◆お姉ちゃんへの日記 2021年3月□□日◆

『リーダーのマックスさんは、生真面目な人です。でも、綾音ちゃんのことは何だかんだ言いながらも可愛く思ってるみたい。綾音ちゃんや辰巳くんはまだまだ子供だけど、私たちのことを本当に仲間と思ってくれているし、何か役に立ちたいといつも真剣に考えてくれている、本当に良い子たちです。皆ふたりのことが大好きみたいだよ。私も大好き。こんな風にまだまだ小さな新Iwaki支部だけど、私はどんどんココが好きになってきています!!(#^^#)』

 

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ちょっぴり大きめサイズの机ではあるが、アリスは辰巳にプレゼントされたこのミニチュア学校机とイスを、生涯大切にしようと心に誓ったのであった。

 

〔次回につづく〕

 

 

次回、『第7話・ロボットマンはもらったよ!』に、君もミクロ・チェンーーージッ!