ミクロマン -G線上のアリア-

これはミクロマンの、長い長い物語の、あまたある物語のうちの、ほんのひとつにしか過ぎない。

第5話・新Iwaki支部、始動!<part.2>

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「やっちまいなッ!」デモンブラックのヒステリックな声が砂浜に響き渡る。命令を聞き、アクロ兵たちが、戦斧、戦鎚、槍などの武器を構えてマックス達に詰め寄り始めた。

「配属されて来た早々に、大ピンチじゃないですか!」アリスはアタッチメントベルトで右腕に固定装備している愛用のモバイルブラスターを、訓練通りに破壊光線銃モードに変化させる。そしてセーフティモードを解除しようとして、誤ってベルトの解除ボタンを操作、唯一の武器を地面に落としてしまうのだった。「更に自分でピンチをお招き入れ~」泣き顔になる。

アクロイヤーの出現は想定内だ。みんな西側の崖の方に行って壁を背にしろ! 急げ!」マックスの言葉に瞬時に反応したのは、牽引車サーボマンのウェンディである。「了解です、マックス! みんな早く乗って!」彼女は瞬時にカーモードに変化、牽引車を合体させると仲間を背に乗せたのであった。

「行けと言っても、敵に取り囲まれているぞ! どうすればいいのであるか⁈」グリーンのアイザックが数え切れない敵影にゾッとしながら声を張り上げる。

その時――。「ヒャッホーーーーーッ!!」遥か上空から、嬉々とした雄たけびがこだましてきた。アクロイヤーも、ミクロマンも、全員が空を見上げた。何か落ちてくる。いや、落ちてきているのではない。上空から地面に向け、緑色の飛行物体が物凄いスピードで垂直に突撃してきているのだ。ニュー・ビームトリプラーである! 雄たけびを上げるパイロットは青スーツのマイケル!

 

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ニュー・ビームトリプラーのビームマシンガンが光り輝き、幾筋もの閃光を連続で放ち出した。ミクロマン達のいるところの西側、先ほどマックスが指示した崖までの動線を遮る、見上げるアクロ兵の顔面や脳天、エンジン心臓部に熱線が次々に命中して行く。合計8体のアンドロイド兵が、砂浜に崩れ落ちた。

「いまだ、行け!」マックスの指示に、牽引車は猛スピードで走り出した。上の者は振り落とされないように必死にしがみ付く。

マックスもミクロ・ワイルドザウルスの操縦席に飛び乗った。逃がすものかと周囲のアクロ兵やアクロメカロボが飛び掛かろうとしたその時、ついに地面まで近づいたニュー・ビームトリプラーが機首を上げ、状態を地面すれすれの水平飛行に移し、速さをまったく緩めることなくマックスの方角へと向かい出した。「どけ、どけ、どけーぃ! マイケル様のお通りだーッ!!」緑の機体がミクロ・ワイルドザウルスとの線上にいる敵を次々になぎ倒し、そうして最後にはぶつかるギリギリ寸前でマックスの目と鼻の先を急上昇、再び上空に向かって飛んでいったのである。

「とんだスピード狂だ!」マックスは戦闘車両のアクセルを踏み込みつつ、砂浜に散らばるアクロ兵とアクロメカロボ達に、自慢のミクロ・ガトリング砲の一斉射を浴びせかけたのだった。

 

「何をしているんだい! 一匹も逃がすんじゃないよッ!」流木の枝を左のかぎ爪で叩き折り、黒デモンが大声を張り上げる。アクロ兵の半数が砂浜を駆け出し、崖に向かった新人一行を取り囲んだ。一番大柄なサーボマン・ウェンディは人型に変化、他の者たちを守るようにアクロ兵の前に立ちはだかった。

「オレ、戦闘用でねぇからよぉ、武器なんてもってねぇんだわ。どうすっぺ、どうすっぺ⁈」何故かいわき弁の小型サーボマン・アシモフは、怖さのあまりパニックになっている。

「武器、武器、何か武器はないのッ⁈」自問自答するアリスはポケットから、ハンカチ、ティッシュ、リップ、名刺ホルダー、のど飴を次々と取り出しては放り投げる。彼女の手持ちの武器は先程落としたモバイルブラスターだけ。「激しくピンチレベル上昇中~」半べそをかき出す始末だ。

「メカニックマンの命、工具こそ剣よりも強し、である!」アイザックはアタッチメントベルトで常に右腕前腕部に装着している自慢の万能工具マグネスタックを構えた。いざとなったら目の前に来た敵一体くらいにならば、電撃やバーナー攻撃くらいできる! ・・・と言っても、工具レベルの威力しかないが。

眼前に広がる砂浜のあちこちで、ミクロ・ワイルドザウルスとニュー・ビームトリプラーが、アクロ兵とアクロメカロボと激しく交戦しており、非戦闘員である彼らの救助にはすぐには来れなさそうなのが分かる。

つぶらな瞳をしたウェンディも戦闘型ではない。しかしミクロマンメカとして、新Iwaki支部を任せられた大切なミクロマン達を死なせてしまうわけにはいかない。例え自分が壊れようが破壊されようが、何としてでも守り抜くと強い決意で身構えていたのであった。

 

じわじわと包囲網を狭めてきたアクロ兵が、それぞれの武器の鋭利な先端を一向に向け、一気に突き立ててこようとした! だが、どうしたのだろう。突如として先頭にいた3体がガクンと膝をつき、前のめりに砂浜に倒れこんだのである。見ると、後頭部に熱戦を浴びた赤い穴があり、くすぶっていた。

パシュッ、パシュ、パシュ、と小気味いい単発的で鋭い音がどこかから聞こえる度に、次々とアクロ兵が倒れていく。ものの2、3数秒のことだ。あっという間に1体を残してすべて地面に横たわり動かなくなる。敵味方問わず、その場にいた全員が唖然とした。

パニックになった残りのアクロ兵が、何事が起きているのだと倒れたアンドロイド仲間を慌てふためきながら見る。次に後ろの砂浜の方を確認するのに振り返った瞬間、また鋭い音がしたと思ったら眉間に穴が開き、電子頭脳が破壊されて動きが停止、ゆっくりと崩れ落ちたのだった。

 

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「いったい誰だい⁈」最初は驚いたものの、見当をつけたデモンブラックが東側を見、砂浜、次に草木に囲まれた崖、更にはその上にそびえる潮見台を順に確認していった。彼女の超能力・千里眼が、まるですぐ目の前のことのように、潮見台屋上の落下防止手すりの柱の隙間を拡大視する。ミクロ・アサルトライフル(光子弾仕様。型としては、他にマグネパワー弾、レッドパワー弾仕様も存在する)を構え、狙いを定める赤いスーツのミクロマンがいる! あそこから、神業の狙撃術で1発も外すことなくアクロ兵を瞬間的に次々狙い撃ちしていたのだ。

赤スーツのミクロマン・メイスンは、かつてミクロアース時代、ミクロオリンピックに何度も出場、射撃競技でいくつも金メダルを授与した経験を持つ。彼はあらゆる銃器のエキスパートでもあり、射程距離ギリギリの範囲から針の穴に余裕で銃弾を通すほどの技術力を持っていた。

「超高性能AIの射撃技術にも負ける気がしない」と、彼は口癖の独り言を口にして、失礼な覗き魔に引き金を引いたのだった。

 

察知したデモンブラックは瞬時に身体周囲にバリアを張り、レーザービームをはじき、事なきを得る。彼女は攻撃を受けたことに苛立ちを隠せなくなった。自分たちが、ミクロマン待ち伏せして一網打尽にする罠を仕掛けたはずだった。しかし、これはどうしたことだろう。ミクロマン達はそれを見越して、罠に対する罠を用意していたように見える。そうだ、罠にはまったのは、自分達アクロイヤー勢の方であったのだ・・・!!

デモンブラックが分析した通り、マックス達はアクロイヤーの襲撃を前もって予測、あらゆるパターンの攻撃を想定し、念入りに対策を立てていたのである。

デモンブラックは舌打ちをした。あの赤い狙撃手と言い、砂浜を所狭しと戦い続けているスピード狂の青色と言い、そしてリーダー格らしい黄色のミクロマンも含め、その戦いぶりは彼女が今までに戦って来たミクロマンとは全然異なる。異様なまでに連携が取れている上に、強い、強いのだ。

「やつらは後回し。かくなる上は!」デモンブラックは右往左往している、おそらくは新しい基地か何かの内部を任せられる為に派遣されてきたのであろう非戦闘員と推測される、先刻たどり着いたばかりの面々にボール状の右手を向けたのであった。

「ひとまずは、ザコを先に始末しよう・・・」怪しい七色の微かな光がチラチラと右手ボールの周囲に発生、黒光りする球状の先端の穴に吸い込まれて行く。一点に集束していく光は大きな塊に成長していった。デモンブラック自慢の身体射撃武器ノヴァ・アクロボール砲――それは周囲の負のエネルギーを右手の先端にかき集めて撃ち出し、当たった場所で爆発を引き起こすと言う恐るべき“負の弾丸砲”であった。

怪しげな動きを見せているデモンブラックに、メイスンが次々とレーザーをヒットさせるが、当たるたびにバリアに弾かれてしまっている。

「アッ! 激ヤヴァ!」デモンブラックの動向を目にしたアリスが悲鳴を上げた。ウェンディのそばで頭を押さえる面々。

「死になッ、ザコどもッ!!」黒い悪魔が嘲笑しながら、怪しく七色に滲むノヴァ・アクロボール弾を撃ち出した!!

刹那――ウェンディの目の前に大きなものが駆け付け、身を呈して彼女たちを守ったのである。マックスの操縦する、ミクロ・ワイルドザウルスだった。

すぐ脇に仲間がおり、味方を弾いてしまうことから逆に危なくてバリアを張ることができず、ノヴァ・アクロボール弾の直撃をまともに受ける戦闘車両。操縦席の右わきに設置されている巨大なミクロ・ガトリング砲が盾となり一行を守ったが、操縦席のディスプレイに、損傷レベル大の警告文字と、緑色したミクロ・ガトリング砲のイメージ線図が、赤いダメージ表示線図となり激しく点滅したのだった。

「ちょこまかちょこまかと、鬱陶しいやつだねぇ!!」ミクロ・ワイルドザウルスが動かぬのをいいことに、先ほどより小ぶりのノヴァ弾を次々と連続で撃ち出し戦闘車両に爆発ダメージを与えていく悪魔。

「メイスン、あの黒いやつをどうにかしてくれ。レーザーは当たっても弾かれているようだ⁈」マックスが通信機に叫ぶ。「了解した!」メイスンはライフルを抱えると、屋上の床に停めていたスーパージェット・ライトに飛び乗る。

 

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今 “恋する機械人形” が誕生した

「マックス、大丈夫ですか⁈ あなたも車両もダメージを受けています!!」ウェンディが心配するが、「何とか大丈夫だ!」とマックスは作り笑いで女性型サーボマンを見たのだった。「私のボディは巨大で頑丈です。ここにいる皆さんの身代わりの盾となり、犠牲になります。あなたはここから離れ、あの指揮官らしい黒いデモンタイプを倒してください。そうしなければ、あなたも車両も共に倒れてしまうことになりますよ!」

マックスは爆発に耐えながら、ウェンディに怒鳴った。「身代わりなんて言うもんじゃない! いわきに来た以上は、ミクロマンであろうが、サーボマンであろうが、もう僕の大切な仲間であり友人だ! 自分で考え行動できる君は“魂の宿った者”なんだよ! 生きている我々と同じなんだ! 犠牲になるなんて思うもんじゃない!」

女性サーボマン・ウェンディの電子頭脳が瞬時にマックスの言葉を理解しようとする。この世に生まれてからというもの、沢山のミクロマンと知り合い良くしてもらってきた。メカの開発やメンテナンスの仕事も、彼らと行い問題なくこなしてきていた。機械なので本当の感情というものは知らないが、ミクロマンや人間の言う楽しいとか幸せとか言うものは、こういう状況下にあることを指すのだろうと想像していたものだ。

マックスも思いやりのある優しい人物なのだろうと分析できる。しかし、今までに接してきた者たちと決定的に違うものがあり、感じたことがない不思議なものが彼から感じ取られた。それは、ウェンディのことを“機械の仲間”として見ず、“生物としての仲間”として認識していることだ。マックスの生き物を慈しむ深い思いやりと熱い情熱が込められた“想い”がウェンディにも込められていたのである。

初めて分析し感じたその“想い”が、自分の中に埋め込められている高度なはずのミクロマン・プログラムにも存在していなかったその“想い”が、彼女の中に思いもよらぬ、見知らぬものを知ったショック電流を走らせた。全身の隅々の電子盤と配線にビリリと感じたこともない大ショックが駆け抜け、内蔵されたエンジンが早鐘のように回転数を上げたのだ。

サーボマンの感情は、高度にプログラミングされた機械としての疑似判断・疑似決定にすぎない。しかし、いまウェンディの中を駆け抜け、芽生えたモノは異なっていた。彼女の中に、“新しい何か”を生み出してしまったのである。新しい知識や、プログラムではない。本来であれば、機械が永遠に持ち合わさぬもの。

それは、“恋”であり、“愛”であった――。

 

東側の崖上から紫色の物体が飛び上がり、矢のようにデモンブラックに向かう。メイスンの操縦するスーパージェット・ライトだ。黒い悪魔はメイスンの動きを見逃しはしなかった。ミクロ・ワイルドザウルスへの攻撃をやめて身構える。

メイスンは、バリアを張り巡らせているデモンブラックには、機体両翼先端に搭載されてるビーム砲でも埒が明かないだろうと判断、搭乗したビークルを悪魔に特攻させることにした。「今だ! くたばれアクロイヤー!」叫びながら、本人は飛び降りる。

ビークルがぶつかる寸前、デモンブラックは宙に向けて高く跳躍し、体当たり攻撃を回避したのであった。メイスンの乗り物は砂地に機首をぶつけると反動で一度だけ飛び跳ね、再び砂地に落ちると胴体をこすりつけながら滑り続け、奥にある木々の間に飛び込んで挟まり、ようやくその動きを止める。

さすがの黒い悪魔も、砂浜の中央付近にバランスを崩しながら着地。急いで体勢を立て直そうとした。「な、なにッ⁈ まだ死んでなかったのか⁈」黒い悪魔はさすがにゾッとした。あれだけの攻撃を受けたのに、西の崖下の爆炎の中からミクロ・ワイルドザウルスが飛び出し、デモンブラックに物凄いスピードで向かってくるのが見えたのだ。ボディはデコボコになり、色が剥げ、巨大ミクロ・ガトリング砲も含めて、あちこちから故障の煙を上げている。

亡きミクロマン・マリオンの設計から、頑丈かつどのようなことがあっても内部から暴発はしない作りになっていたが、巨大な砲身はあまりのダメージにもう使い物にはならなくなっていた。マックスは機体操作ディスプレイをタップ、がたつくミクロ・ガトリング砲を接続部からパージした。重い音を立てて砂浜に落ちるマリオンの形見の必殺武器。

「僕はまだやれる!」マックスはフロントライトをビーム砲モードに切り替え、デモンブラックに照準をセット。目の前にたどり着いた瞬間にゼロ距離射撃を行おうと突撃を敢行したのだった。バリアを張る前に超接近して攻撃をすればさすがに・・・。

「ヘルピオーーーンッ!!」デモンブラックが声を張り上げる。次の瞬間、砂浜の中からピンク色をした巨大なハサミ状の手が突き出し、両サイドからミクロ・ワイルドザウルスのボディを掴んで、無理やり動きを止めたのだった。巨体を持ち上げられ、空回りする巨大な4つのタイヤ。

 

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ミクロマンごと、串刺しにしちまうんだよッ!!」戦闘車両を掴んだまま、砂から巨大なアクロモンスター・ヘルピオンが現れる。一見するとサソリのように見えるが、バンパイザー同様、輪郭だけがサソリと言うだけで、姿はエイリアンのように奇形でグロテスクだ。生物のようであり機械的でもあるような、皮膚も皮ではなくプラスティックとか金属のような、とても普通の生き物には思えないモンスターである。

「油断したッ!!」マックスが必死にハンドルやアクセルを操作するが、タイヤは激しく空回りするだけ。アクロモンスターの出現も予測の範囲内であったが、先程からの流れで、彼は完全にデモンブラックに気を取られすぎてしまっていたのだ。

ヘルピオンの、鋸の様な刃が付いた巨大な尾は何でも貫く鋭利な先端を持ち、それはドリルのように回転する機能を持っている。ピンク色の大サソリは女主人の命令に従い、押さえつけていたミクロ・ワイルドザウルスのボディ真下中央に、鋭い針をズブリと突き刺したのであった。

 

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――同時刻。綾音は学校が終わり、いつものように友人数人と帰路についていた。昨日、マックス達が教えてくれた話によると、彼らは今頃、本部から来る新しい仲間を海の方へ迎えに行っているはずである。

一週間前、マイケルとメイスンがやってきたことを知らされた辰巳は「マックスはもう寂しくないね!」と微笑み、場を和やかなものにしてくれた。辰巳は幼いなりに、マックスの心情を察していたのである。そして、更に数名のミクロマン達が近くやってくることも教えられると、「どんどんボクの友達もいっぱいになるねー!!」と大喜びしたものだ。

楽しみなのは綾音も同じで、おそらく時間からして自分が帰宅した後、それほど待たずしてマックス達は新しい仲間を引き連れ戻ってくることだろう。朝から待ち遠しくて仕方がなかったものである。

 

途中で友人たちと別れ、ひとり自分の家への近道である中央町自然公園に入り込む。ここは町中にある、ちょっとした広さを持つ森の中を連想させる作りをした公園だ。木々や草花が奇麗に栽培されており、近所の子供や老人の憩いの場になっている。ただ、今はまだ2月。寒いということもあり、ひと気はほとんどなかったのであった。

公園内の遊歩道をテクテク歩いていると、一匹の黒い子猫がこちらを見て可愛らしくニャーと鳴くのに出くわした。鈴が付いた赤い首輪をつけている。「めっちゃ可愛い~♪」綾音はしゃがみ込んで、手招きした。子猫は首を傾げ、何度か鳴くと、ひょこひょこ可愛らしく歩いて、横にあった木々の間に姿を消してしまう。

「猫ちゃん、どこどこ?」顔をほころばせながら黒い子猫を追いかける綾音。奥の木の陰に子猫の尻尾を認め、こっそりと覗き込もうとしてみる。すると、次の瞬間、「ギャッ!」と喉を潰したような鳴き声を上げて子猫が勢い良く明後日の方角へ向け走り去っていってしまったのだった。

「え? どうしたんだろう・・・?」綾音は不振に思い、木の陰を覗き込んでみる。すると、そこに緑色の爬虫類がいて、目が合ったのであった。

 

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一匹のイグアナだった。いや、イグアナの輪郭をしているだけ、だ。前に綾音を襲ったバンパイザー同様、あくまでも輪郭だけがイグアナと言うだけで、姿は奇形でグロテスクなモンスターである。しかも、大きく膨らんだ両肩にはいくつも穴が開いており、鉛筆大の太さの蛇が顔を覗かせていたのであった。

少女は全身の毛が逆立った。瞬間的に、これがアクロイヤーの手先、量産型ロボの一体であること直感する。そう、まさしくそれはアクロイヤーの作り出したアクロモンスター・量産型イグナイトであったのだ。

 

『磐城綾音、9歳、2011年4月7日誕生、データに該当する対象非検体少女と遭遇、催眠光線にかけ、“探し求める子”であるかどうか検査確認する』

アクロイヤーの手先、量産型イグナイトの電子頭脳がデータを照合。ターゲットの一人として登録されていた少女の一人、綾音であることを知り、怪しくその相貌を真っ赤に光らせた。

 

〔第5話・新Iwaki支部、始動!<part.3>に、つづく〕

第5話・新Iwaki支部、始動!<part.1>

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『お姉ちゃん、ついに明日が、いわきに向かう日です。10年前の411のあの日、仙台支部からたった一人勇敢に助けに向かったお姉ちゃんが、最後に守ろうとした地、いわき。そこに再びアクロイヤーの魔の手が伸びているそうなんです。小さな子供たちがね、狙われているんだ。

壊滅したままだったIwaki支部だけど、当時の隊員の一部が集まり、いわきで事件が起き始めている事実を調べ出して報告、再始動させたいことを富士山麓本部に要請したの。会議で承認され、再開が決まりました。でも、どこの支部アクロイヤー対策に追われてて、急な再編成は現時点では難しいということで、まずは私みたいな新米のメンバーに声がかかったの。「これは最大のチャンスだ!!」と私、自分から配属希望を名乗り出たんだよ。

尊敬するお姉ちゃんの代わりにはならないかもしれないけど、お姉ちゃんが最後に守ろうとした基地や、その土地、そしていま狙われている子供たちを、今度は私が守りたいって思ったの。お姉ちゃんの代わりに私が守る! がんばるからね!

・・・と言いつつ、明日はあちらの皆さんが総出で迎えに来てくれるそうで、実は今からすっごい緊張気味でいたりします(;^_^A』

 

新米女性ミクロマンが着用するピンク色の簡易ミクロスーツ姿の少女ミクロマン・アリスは、自分が愛用するモバイルブラスター(破壊光線銃にも変化する、携帯万能コンピュータ)のキーボードを叩くのをそっと終えた。

彼女の姉はドロシアと言い、ミクロマン仙台支部のレスキュー隊員で、ロボットマン2乗りであった。2011年3月、東日本大震災のあと、応援や救援要請を出していたIwaki支部を、所属する基地の命令(仙台も地震で甚大な被害を受けており、他には手が回せなかったのだ)で助けに行けなかったことを悔いていたドロシアは、4月11日に起きた余震の際、再びアクロイヤーの奇襲攻撃を予感、たった一人いわき支部に応援に駆け付けたのだ。Iwaki基地に一人残っていたエンジニア・マリオンと協力、必死にアクロイヤーの攻撃に抵抗を続けたものの、最後は大爆発に巻き込まれ、帰らぬ人となったのである。

愛する姉ドロシアの影響を受け、アリスはレスキュー隊員養成学校に入り、先日、卒業したばかりであった。新米の彼女は配属先もまだ決まらずにおり、富士山麓本部で雑用を任せられる日々を送っていた。そんなところに、姉の死を通して気にかかるようになっていたIwaki支部再開の知らせと、隊員派遣の話である。即、飛びついたことは言うまでもない。

アリスには、姉と生前、頻繁にやり取りしていた個人メールアドレスがある。彼女はそのメアド宛てに、日々の出来事や想いを綴った文章、“お姉ちゃんへの日記”と自分で名付けたものを、今なお送ることを心の糧としていた。常にアリスのことを気にかけてくれていた、頼りになる大好きな姉からもう一切返事が来ないことを承知しつつの行為である・・・。

いま打ち終えた、今回の“お姉ちゃんへの日記”に記したように、アリスは自分を活かす為の目的がハッキリと見え、どこで生きていくか決心したことを、姉に伝えたかった。送信キーを押す。画面に、嘴に手紙を咥えた鳥のマークが現れ、空へと羽ばたいていくアニメーションが流れた。まるで鳥の行き先を追いかけるように、部屋の窓の外に見える現実の青空に目をやる少女。その瞳は、しっかりとした揺るぎない決意の色に彩られていたのである。

 

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――「マックス、本部からデータ通信が入った。明日、こちらに到着する予定の、第一陣メンバーのリストだ」赤スーツのメイスンが、指令基地の大型メインスクリーンを見るようマックスに促した。

 

いわき市にいる3人のミクロマンが、富士山麓本部に連絡を取ったのは6日ほど前のことになる。通信先である本部・指令室にいた面々や上層部ミクロマン達と3人は、古くからの知り合いであった。お互いに友情は変わっていない。しかし、もう10年も経つことから、なかばマックスの捜索に諦めを感じていた本部メンバーである。それが突然、画面に顔をぬっと出し、「久しぶりだ。相談がある。Iwaki支部を再開させて欲しい」と、挨拶もそこそこに要望を口にマックスが登場。指令室の面々が色んな意味で腰を抜かさんほどの驚きを見せたのは当然と言えよう。

大切な友人であるマックスが生きていたことに目頭を熱くさせながら、本部の面々はマックスたちの話に聞き入った。「“いわき調査・監視班”から詳細な報告は受けている。上層部会議にもかけ、君らが希望しているのと同じように、再開を再び考える時が来たようだと結論を出したところだ」「話が早い! 助かる!」「・・・ただ、明日にもすぐに、という訳にはいかない事情もある。いわきにおけるアクロイヤーや、謎の青い戦闘型ロボットの動向の問題もあるが、何より今、本部含め各支部は、日々起こるアクロイヤーの悪事の対処に追われており、新しい基地の建設、マシンの再配備、メンツの再編再配属と言う流れを即座には取れない状況にあるんだ」

マックスが険しい表情になる。「事情は分かる。だが、そうこうしているうちに、子供達への被害は広がるばかりになるぞ?」

 

ずっと様子を見ていた綾音が、無理やり指令基地のスクリーンを大きな目で覗き込んだ。「ハイ! ちょっと話に参加させてください! マックスたちの話にも出た、磐城綾音と言う者です!」マックスたちの話から綾音の存在は既に分かっていたが、急に巨大なふたつの目玉が覗き込んできたことに、本部の面々は再び腰を抜かさんほどに驚いた。

「あたしのことも、ミクロマンの仲間に入れてほしいの!」綾音の言葉に、指令基地の3人が「なんだってー⁈」と振り返る。「いわきの平和維持活動を進めていくのに人手が足りないんでしょう? 本部も、急には他の仲間をよこせないんでしょう? だったら、あたしが手伝うよ!」「気持ちはありがたいが、しかし・・・」マックスの言葉を遮る綾音。「わかってるって! 子供を危険なことに巻き込みたくないって言いたいんでしょう⁈ でも、それを承知で頼みたいの。だって、いま事件に巻き込まれているのは私の知り合いだったり、もしかしたら友達だったりするかもしれない子供達なんでしょう? 仮に友達でないとしても、同じいわき市に住む子供だよね? 同じ立場にある子供のあたしが、事件が起きていることを知ってて、何もしないでひとり平和な顔をしてのほほんと生きてるなんて嫌だよ!」「・・・!!」「それに、人間の為に身を削ってミクロマン達が一生懸命に戦っているのに、人間のあたしが守られているだけで何もしないでいるのはおかしいと思うし、そんなの嫌だ!! 自分で自分が納得できないよ!!」

小学生とは思えない説得力のある熱い綾音の言葉に、3人のミクロマンと本部の面々は否定すべき言葉を失った。

綾音が傍にあったピンクのスマホを手にする。「あたしがどういうことで役立てられるかは今わかんないけど、思い付いたことならひとつあるよ。あたし、いわきの色んな所に、LINE友がいるんだ。そのLINE友の中には、すんごい数のLINE友がいる子もいる。子供の身の回りで何が起きているか知りたいなら、子供に直接聞くのが手っ取り早いんじゃない? 私がLINEでつながってる子らの間に入って聞いて回り、調べることが出来る。マックス達が飛行機に乗って情報をあちこち探すより、ずっと早いと思うんだけど」

「ほうほう、なるほどな。そりゃ良い案だと俺さまも思うぜ~」青スーツのマイケルがひょうひょうとした口調で手を上げる。

「同感だ」と、無表情にメイスン。

綾音と一番最初にコンタクトし、友人となった肝心のマックスは? と、皆が一斉に視線を向けると、「分かった、分かった・・・綾音がメンバーに入ることに、僕も異論はないよ」と、彼はお手上げと言うように両手をバンザイにしたのだった。感情が高まり、いつの間にか大粒の涙をボロボロと綾音は流していたのだが、その涙が次々とマックスの上に落ち、彼は半ばびしょぬれになっていたのだ。「君の真剣な気持ちは十分わかった。熱心さに負けたよ。それに、これ以上、僕もぬれたくないからねぇ~・・・」

「ありがとう、皆! あと、基地を作るなら私の家にしなよ! 水石山の基地はボロボロだし、アクロイヤーにも知られちゃってるんでしょう? あたしの部屋とか天井裏とかどうよ。まさか、ここにあるなんて、誰も気が付かないと思うよ⁈」

「ほうほう、なるほどな。それも良い案だと俺さまも思うぜ~」青スーツのマイケルが、先ほどと同じくひょうひょうとした口調で手を上げる。

「異論はない」と、同じくまた無表情にメイスン。

黙って聞いていた本部指令室の面々が画面の向こうで顔を合わせ、二言三言、言葉を交わした。「・・・うむ、綾音くんのことも含めて色々と了解した。だが、さすがにすべてを一気に立ち上げるのは難しい。だから、まず第一弾の段取りとして、先行してそちらに行かせられる人員を――少数ではあるが――早急にこちらでどうにかする。新Iwaki支部を早速立ち上げ、事件の調査・解決に動き出すにも、三人では心許ないだろう。ひとまずはもう少しメンバーが必要だ。一週間ほど時間をくれないか?」

指令基地の12Xチームの面々と、綾音は笑顔でうなずき合い、メインスクリーン越しに敬礼したものだ。

 

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そして、その日から6日後の今日。ミクロマン富士山麓本部から、派遣される面々について報せる入電があったわけである。指令基地の大型メインスクリーンに、やってくる面々の顔写真と簡単なデータが次々と表示されていった。

 

アイザック(男性クローン・ミクロマン)――旧Iwaki支部に所属していた故マリオンと同タイプのエジソン・クローン。メカの開発や発明に従事してきた経験を持つ。ラボ、ファクトリー担当可能。

・アリス(女性ミクロマン)――レスキュー隊員養成学校を卒業して間もない若手女性ミクロマン。経験は浅いが、自らIwaki支部配属を志願してきた。彼女の姉は411の際、ロボットマン2で旧Iwaki支部を救援に向かい戦死したレスキュー隊員ドロシアである。姉の志しを受け継ぎ、平和維持活動に従事したいと強く申し出ており、決意は固い。インテリジェンス、メディカル担当可能。

アシモフ(男性型サーボマン)――様々な知識をインプットされた小型で小回りが利くロボット。インテリジェンス、メディカル、ラボ、ファクトリーと言った基地の各部門すべてをアシスト可能。

・ウェンディ(女性型サーボマン)――ミクロマン・人間世界問わず、地球上におけるメカやマシンのあらゆる設計図やデータがインプットされているロボット。カー形態に変化も可能で、専用のミクロ高所作業車を牽引合体もできる。メカニックマンとしても超一流の技術能力を与えられている。ファクトリー担当可能。

 

ミクロマンが二名配属、サーボマン二体が配備、上出来じゃないか!」マックスに、他の二人が親指を立てて見せる。

「当面これでがんばれや、と本部は言いたいんだろうな」マイケルの推測に、「間違いない」と無表情にメイスンが返答した。

「その他連絡事項によると、ダンナの指示通り、お仲間さん達は明日の16時頃、三崎公園下の小さな砂浜――マックスがカプセルで眠りについていた例の砂浜――に、海中ルートでやってくることになったようだぜ。・・・で、だ。マックスのダンナよ、やはり敵さんたちは現れると思うかね?」懸念するマイケルに、マックスは綾音の部屋のカレンダーに書かれてある明日の日付を睨め付けたのだった。

「来る・・・と思う。我々がやつらを調べているように、やつらだって我々を調べているはずだ。富士山麓本部からミクロマンがいわきに向かうというこの情報だって、どこでキャッチされているかわかったもんじゃない」「・・・だろうな」「だから、今のうちに作戦を立てておこう」三人は、指令基地の大型メインスクリーンに、三崎公園の地図を表示させたのであった。

 

――いわき市のどこかにある、人間にも、ミクロマンにも知られていない、謎の暗黒アクロイヤー空間。その中心部、仄かにぼんやりとだけ輪郭が金色に光る球形をした狂気の部屋の七色の彩色がフッと落ち着き、ぼんやりとした金一色の世界となった。黒、緑、銅色の点が滲み出すように現れ、黒色だけが膨れ上がりアクロイヤーの姿となる。

重くのしかかる様な中年女性の声で、黒いデモンブラックが他の二人に報告したのだった。「スパイロイヤーから緊急連絡が入ったよ。明日の夕方、ミクロマン富士山麓本部から数名のミクロマンとメカが、いわきにやってくる情報をキャッチしたと言うことだ。三崎公園下の砂浜が、合流場所らしいと言うこと以外、詳細は何もわからない。・・・が、今までにない動きじゃないか。我々の計画に気が付き始めたやつらが、いわき市で本格的に平和維持活動を再開させる準備を始めようとしている可能性は否定できないねぇ」

「厄介なことになる前に、手を打たねばならん」と、老女声の銅色。

「勿論、早めの対処が良いに決まっているさ。まとめて私がそいつらを血祭りにあげて見せよう!」デモンブラックは、まるで面白いゲームの参加権を手に入れたように、はしゃいだ声になる。

「よろしく頼む」とは、理知的な若い女性の声をした緑色だ。

重くのしかかる様な中年女性の声、しわがれた老女の声、理知的な若い女性の声が、同時に口にした。「我らがアクロイヤーの繁栄と未来の為に・・・!」と。

 

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三崎公園

 

――いわき市の南東、海に面した場所に、総面積700,000㎡ほどの広さを持つ小高い丘がある。そこは、中央のマリンタワー(塔屋59.99mの展望塔)を筆頭に、巨大芝生広場、アスレチック遊具広場、遊歩道、バーベキュー場、野外音楽堂、ホテルと言った、人々に遊びと憩いを提供する場や施設が設けられている巨大自然公園で、その名を三崎公園と言った。

太平洋といわきの街並みを一望できるこのシーサイドパークは観光名所でもあり、休日ともなると、親子連れや他県ナンバーの観光バスが出入りする姿が多く見られる。しかし、今日のように平日だと、散歩や運動に訪れた近所の人達の姿がちらほらとまばらに窺える程度で、ほぼひと気はなかった。夕方前近くとなれば尚更である。

その三崎公園からせり出し、海に向かって突き出た崖っぷちに、潮見台と言う小型の展望台があった。大砲の砲身のように海に延ばした通路上の展望ポイントがあるその潮見台は、周囲が森や防風林に覆われており、遥か眼下には幅50m弱程の狭い砂浜が広がっているのが見える。

東側は潮見台がある高い絶壁、西側には何もない高い絶壁、波打ち際はゴツゴツとした岩場があるだけの、これと言って特徴もない砂浜だ。潮見台わきの階段、もしくはアスレチック遊具広場から坂道を下ってくるとここに出るのだが、一月の初め、綾音と辰巳がマックスとミクロ・ワイルドザウルスを発見したのが、この砂浜であった。

 

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誰もいない砂浜の中央に、ポツンとラジコンカー大のベージュ色をした4WD車が見える。ミクロ・ワイルドザウルスだ。ボディに腰かけて海を眺めているミクロマンもいた。イエローとホワイトのツートンカラーのミクロスーツを身にまとうマックスである。

平日ということもあって、綾音と辰巳は学校や保育園に行っており、ここに姿はない。

彼は本部との約束通り、7日目の今日、16時前に、待ち合わせに指定したこの砂浜に来ていたのだった。

ミクロマンの姿を人に見られてはまずいことは言うまでもない。勿論、他にもひと気のない場所はいくらでもあったが、わざと“ひと気がなさすぎないギリギリの線”で、ミクロマン達は新しい仲間と落ち合うのに敢えてここを選んだのであった。あまりにもひと気がない場所だと、逆にアクロイヤーが目立たないのをいいことに、戦力を増大しやってきてしまう可能性が予測されたのである。だが、人がやってくるかもしれない可能性を含んでいるこのような場所であれば、大軍団で押し寄せることなどはしないはず。ここ何年も隠密行動をとっているぐらいだ、彼らもバカではないだろう。

仮にアクロイヤーが現れたとしても、場の状況的におおよその数が予測できうるところ、周囲の建物や人間に被害が及ばないところ、自分たちも勝手をよく知るところと勘案した結果、マックス達はここを選んだわけであった。

 

彼はミクロ・ワイルドザウルスの操縦席ディスプレイを確認した。時間はそろそろ16時になる。新しい仲間達が到着する時刻だ。

待ち続けていたこの一週間の間に、マイケルとメイスンが仙台支部に一旦戻り、いくつかのマシン用部品を持ち帰ってくれていた(メイスン曰く、「きちんと手続きは取った。だが受理されるまでの時間がもったいないと、マイケルが備品庫から勝手に持ち出した物だ」)。そのお陰で、この戦闘車両と指令基地の通信機やレーダーは最新モデルに入れ替わっており、何があっても以前のように困ることはなくなっていたものだ。操縦席を取り巻く薄汚れているパネルのうち、該当する一部が交換された新品機器の輝きを放っている。

キレイな新型モデル通信機に、ついに通信が入った。少し幼い感じがする女性の声で、到着したことと迎えに来ているかの確認を取ってくる通信である。

「こちらマックスだ。周囲確認、異常なし。浮上されたし」返答すると、砂浜から少し離れた波間に、2リットルサイズの黒いコーラのペットボトルが静かに浮かび上がってきたのだった。押し寄せる波の動きに合わせてペットボトルは砂浜に近付き、ついには陸に乗り上げる。ビックリ箱のふたが開くように、横倒しのペットボトルが、パカッと横一文字にわかれて開いた。中に液体はない。内側の壁面にみっしり詰まった機械と配線類が見える。ミクロマンの“シークレット・ミクロサブマリン”、コーラのペットボトルに偽装した潜水艦であった。

中央部分に大きな空洞があり、そこに一台の車両が見える。先のデータ情報によれば、牽引車に変化した女性型サーボマンとそれに牽引された高所作業車で、運転席と作業車の上には合計3つの人影がある。

 

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車両が浜辺に進みだしてきて、マックスの傍まで来て停止する。新米女性ミクロマンが着用するピンク色の簡易ミクロスーツを着た少女、グリーンをベースにしたレッドパワーズスーツを身にまとった男、ガラスケースの頭部からメカ頭脳が透けて見えている小型サーボマンが次々と砂浜に降り立つ。全員が降りたタイミングに合わせ、牽引車が一瞬にして変化、ボディがずんぐりむっくりした、その割につぶらな目をした人型サーボマンとなった。

おかっぱ頭の、ピンク色の少女が緊張した面持ちで敬礼してきた。「アリス隊員、アイザック隊員のミクロマン二名。アシモフ、ウェンディのサーボマン二体、無事にいわきに到着いたしました!」マックスも敬礼する。「よく来てくれた、歓迎するよ。僕はマックスだ」「本部から話は伺っておりますッ!」新米ミクロマンのアリスが、緊張のあまりだろう、血の気が失せ、顔色がどんどん白茶けてきている。マックスは両手を軽く振って見せた。「軍隊ではないし、そこまで固くならなくても大丈夫だよ」アリスが胸を押さえる。「あ、ありがとうございます。もう、心臓が爆発するんじゃないかってくらい、緊張しちゃって~・・・」

マックスは新人に少し苦笑いしながら、その隣にいる男アイザックに視線を移した。何人もいるクローンとは知っているが、かつてIwaki支部で苦楽を共にした友人であるマリオンと本当に瓜二つだ。懐かしい思いが込み上げてくる。

 

「わざわざ遠くからやってきた仲間と、これから何をして遊ぶんだい? 私のこともまぜておくれよ」重くのしかかる様な中年女性の声が、急にどこからか聞こえてきた。全然知らない声である。しかし、その殺気と言ったらどうだろう、全身の毛が逆立つほどの物であった。

戦士の危険感知能力が後方に気配を察知。マックスが振り返ると、砂浜の隅の方にある、流れ着いたらしい流木の上に真っ黒い奇形なる悪魔のような姿をした何者かがいるのを発見したのだった。その場にいたミクロマン達は瞬時にそれが、世界各地で確認されている“デモンタイプ”と呼称されているアクロイヤーであることに気が付く。

「フフ、フフフフフッ・・・」黒いデモンタイプ――いわき侵略軍幹部の一人デモンブラックが気味の悪い声で笑い始めると、それに合わせてミクロマン達の周囲の砂浜の下、地中から次々と砂を押し払い、アクロ兵やアクロメカロボが這い出してきたのだった。

10、20、30、40、50・・・全部で何体いるのだろうか? マックスたちは完全に取り囲まれてしまったのである。

 

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〔第5話・新Iwaki支部、始動!<part.2>に、つづく〕

次回予告(5)+【登場人物&メカの紹介④】

【登場人物&メカの紹介④】

 

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人物◆M-121メイスン(男性ミクロマン

“自然科学に優れゾーン建設にかかすことができない” (当時の商品解説より)。

M12Xグループの一員で、ミクロスーツがレッドとホワイトのツートンカラーをしている。

無口・無表情・無リアクションな姿勢を崩さない、感情表現がとても下手な、人付き合いの少ないタイプである。しかし、決して冷たい心の持ち主ではなく、とても友情に厚い、仲間思いなミクロマンだ。

ミクロアース時代は自然科学の研究所に勤めていた研究員だった。射撃の名手で、ミクロオリンピックには何度も選手として出場。射撃競技でいくつも金メダルを授与した経験を持つ。あらゆる銃器のエキスパートで、射程距離ギリギリの範囲から針の穴に余裕で銃弾を通すほどの技術力を持つ。口癖は「超高性能AIの射撃技術にも負ける気がしない」だ。

 

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メカ◆スーパージェット・ライト(ミクロマシン)

過去にミクロマン達によって開発された名機・超音速機スーパージェット(マシン・カーシリーズ)。近年、その名機の機能を簡略化して量産されたのが、このスーパージェット・ライトである。従来のものと同じく、空からの情報収集や飛行による移動を目的に開発されており、最高時速マッハ10で飛ぶ。武装は両翼先端の突起状の部分に搭載されたレーザービーム砲2門。

ライト(軽い)の名が与えられているところからも分かるように、あくまで従来のものを簡略化した量産機でしかなく、特筆すべきところがないありきたりの飛行マシンと言える。

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新生Iwaki支部、始動なる! 本部より、いわきの地へと転属となる新しい仲間達。しかし、そうさせまいとアクロイヤーが襲い掛かってきた――!!

次回、第一部完結、『第5話・新Iwaki支部、始動!』に、君もミクロ・チェンーーージッ!

第4話・新たなる使命<後編>

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その時、偶然が重なった。午後の最初の授業である5時間目のことだ。各学年、授業を担当している教師たちは子供たちのもとへ、空き時間に該当していた残りの教師数人も、来客があり来賓室へ向かったり、校庭側の倉庫に用事ができて外へ出たりして、すべて出払ってしまったのである。こうして職員室には誰一人としていなくなってしまったのだった。

電話番をお願いされた校長は、電話機が目の前にあることからも、隣の校長室でスマホ視聴による国会中継に夢中になっており、職員室の方には全然意識を払っていない。

綾音の通う小学校の大人たちは今、このような状況にあったこともあり、「これはまさしく好機だ」と、様子を窺っていた不審者は職員室に不法侵入したのであった。

 

不法侵入者は、普通であったら目にすることなどないだろう奇妙奇天烈で恐ろし気な姿かたちをしていた。なんとそれは四肢の短い手足のある人の頭蓋骨を模したグレー色のロボットであったのだ。いや、例え誰かがいたとしても、20㎝弱ほどの大きさだったので、入ってきた気配すら感じ取れなかったかも知れない。

ロボットはまさしく綾音が山の神社で遭遇した、アクロイヤーの操るアクロメカロボと同型の物であった。

 

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不細工な頭蓋骨は短い手足をちょこまかと器用に動かし教師たちの机をよじ登り、山積みにされたテストの答案用紙や資料を飛び越えては、あちこちの机の上を移動する。どうやら目をつけていたらしい一番後ろの机の上、電源が入れっぱなしのノートパソコンの前にたどり着くとピタリと立ち止まった。

顎が開くと、まるで蛇の舌のようにシュルシュルと1本のUSBコードが伸び、PCのポートに接続される。すると、双眸が怪しくオレンジ色にチカチカと瞬き、すごい勢いでノートパソコンの画面にいくつものウィンドウが開き出した。次々にデータにアクセスがなされているのだが、どうも目的はこの小学校に通う子供たちの情報にあるようだ。

 

「子供の個人情報パクってんなよ!! 犯罪だぜ⁈」いきなり天井の方から鋭い声がして、同じ場所から短い閃光がひとつ放たれた。ビームである。ビーム光が頭蓋骨とPCを繋ぐコードにみごと命中、焼き切れてブチリと千切れた。

頭蓋骨ロボが驚いて上方を見上げるのと、声がした方から連続で発射されたビーム・マシンガンの光線が次々とグレーのボディに命中、ハチの巣にしたのがほぼ同時であった。頭蓋骨ロボがいくつも空いた穴から微かに煙を上げ、力なく机の上からダイブ、床に落ちてバウンドした後、横になったまま動かなくなる。

 

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死んだのかと思いきや、頭頂部のハッチが開き、中からミクロマンとほぼ同じサイズをした、人型ロボの骨格標本とでも言うべき姿かたちをしたアンドロイド兵らしきものが這い出してきた。アクロイヤーのしもべ、アクロ兵である。

頭蓋骨ロボを操縦していたアクロ兵は腰の戦斧を慌てて手に持つと、攻撃を仕掛けてきた何者かを探して辺りをキョロキョロとしたのだった。

「鬼さん、こちら!」真後ろから声がして振り返ると、そこには青と白のツートンカラーのミクロスーツを身にまとったミクロマンがいた。声の主であるその人物は、今朝、綾音についてきたミクロマン・マイケルその人である。

マイケルは素早くアクロ兵の間合いに入り込むと、手刀で戦斧を落とした。すかさず正拳突きを繰り出す。アクロ兵が後ろによろけたのを見て、マイケルは次に飛び蹴りを食らわせたのだった。すっ飛んで行き、大きく体制を崩して尻もちをつく骨格標本アンドロイド。

「アクロ兵のお前らに話が通じないのは分かっているが、俺さまは優しいんで、倒す前に訊くだけはしてやる。降伏しろ! ・・・あと、“真の目的”はなんだ⁈」

アクロ兵は「ギギ・ガゴゴ・ギギギ・・・」と訳の分からない機械的な唸り声を発し立ち上がる。そしてマイケルを睨みつけ、尚、飛びかかろうとしてきたのだった。

「やれやれ、ご苦労さんなこったぜ」マイケルは身構えるのをやめて、両手を軽く左右に開き首をすくめて見せた。急に油断した姿を見せるとはバカにしているのかとアクロ兵は両目を怒り狂った攻撃色の赤色に輝かせて突っ込む。

 

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次の瞬間、いつの間にかアクロ兵の後方、少し離れた場所に舞い降りてきていたニュー・ビームトリプラーが、ビーム砲から2連射のビームを発射。アクロ兵共通の急所である電子頭脳とエンジン心臓部を背中側から瞬時に焼いた。何が起きたか分からないままアクロ兵は動きを止め、目や口、全身の関節から微かに火花を散らし、前のめりに倒れると二度と動かなくなったのである。

ニュー・ビームトリプラーが床を進み、ゆっくりとマイケルに近づいてくる。「いつもありがとさん、トリちゃん」このマシーンの中央ボディには自律型・超AIが搭載された量産型・流星ロボがそっくり流用されている。その為、持ち主の意思を読み取り、今のように絶妙にサポートしてくれるのであった。

天井付近からアクロメカロボに忠告、攻撃した時はマイケルが搭乗、そのすぐ後にふた手に別れての段取りであった。繋がるコードやアクロメカロボを仕留めたのは、ニュー・ビームトリプラーをその時に操縦していたマイケルの腕だったが、今の急所への連続命中は人技ではできないような超絶高等テクニックである。自律型・超AI搭載マシーンだからこそなせる技であった。

マイケルはマシーンにつかまると、机の上まで上昇させた。先ほどアクロ兵が調べていた教師のノートパソコンの画面を確認する。「やはり、またこの手の子供たちのデータを調べていたのか・・・」青いミクロマンは左手であごをさすりながら、眉をしかめて見せたのだった。

 

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――夕方より少し前、綾音とマイケルが磐城家に帰宅すると、目を覚ましていたマックスとメイスンが指令基地の修理を行っていた。パワーを取り戻した彼らは1時間ほど前にカプセルから出てきたそうだ。その時、昨夜の続きをする上で、データ等を参照しながら話を進めた方が良いと言うメイスンの提案から、コンピュータ周りの修理を行っていたそうである。彼らが施していた修理はあと少しと言うところで、時待たずして完了したのだった。

早速3人のミクロマンは指令基地内に集合する。綾音はと言えば、指令基地の置かれた自分の机につき、見下ろす形で彼らの話に(勝手に!)参加させてもらうことにしたのだった。

 

マイケルが、昨夜疲れてしまったメイスンに対して申し訳なさそうな顔をしながら挙手する。「今日は俺が話を進行させてもらうぜ。メイスン、フォローよろしく」

「異論はない」メイスンがぶっきらぼうに返答した。そして赤スーツの彼はマイケルの話の進行に役立てる為、自分のミクロマシンから持ってきたハンディタイプ・コンピュータを指令基地のメインコンピュータ・ポートに繋いだのであった。マックスに提示するための新しい様々なデータを、これで指令基地の画面に映し出すことができる。

マイケルの指示で、指令基地の大型メインスクリーンに日本の地図が表示された。いくつかの土地に青く光る点が現れる。次に、赤い小さな点がポチポチと、青よりも多くあちこちに点灯したのだった。昨日の話から推測するに、青い点がミクロマンの大型の基地があるところ、赤い点が地方にある小型の支部なのだろうと綾音は推測する。

少女の想像は当たっており、マイケルがいわき市の上に光る赤い点のひとつを指さした。「311と411の自然災害ならびにアクロイヤーの奇襲攻撃における被害は甚大で、我々ミクロマンに多大なる影響が出たのはご存じの通り。死傷者や行方不明者は多数。ほぼ使用不可に追い込まれた支部もあり、後にいくつかは完全に閉鎖を余儀なくされた。それにIwaki支部も含まれている・・・。

該当する閉鎖された小支部の生き残った者の行先や、その土地の以後の平和維持活動は、閉鎖されることになった各支部の近隣にある大型支部に任せられることになった。吸収合併ってやつさね」

メイスンが手元のコンピュータの画面をトントンとタップすると、大型メインスクリーン上の赤い点がいくつか消えていく。それらに交じって、Iwaki支部の赤い光もじんわりと消滅したのであった。

「要するに、Iwaki支部はつぶれちゃったわけ?」言いにくそうに綾音が質問した。

マイケルはため息をつく。「君が目にしたように、まさしく見た目通りに“潰れた”のさ。今、いわき方面の管轄は、仙台の大型支部になっている・・・」

 

「我々のいわき市はとんでもないアクロイヤー被害を受けたんだぞ? あの後は大丈夫だったのか? いわきに滞在するミクロマンの平和維持活動が無くなっても・・・?」マックスが硬い表情でマイケルを見た。

「それが、だ。ここからが本題になる」マイケルが腕組みをする。「実は411の後、しばらくして奇妙なことになり始めたんだ」

メイスンが話の流れに合わせ、新しいデータを画面に表示させた。それは10年前から現在に至るまでの、日本各地におけるアクロイヤー被害の一覧であった。先ほどから表示されている日本地図に重ねるようにして各地に小ウィンドウが開き、いつ何が起きたのかが小窓ごとに次々と上方スクロールされる形で表示されていく。だが、どうしてか、いわき市だけほぼ動きがない。情報が出てきたとしても、アクロイヤーの目撃談レベルで、事件らしい事件が発生していなかったのであった。

「見ての通り、だ。アクロイヤーは何故かいわきで事件を起こさなくなった。だが、この地から去った訳ではない。確実に市内を蠢いていることだけは確認されている。動きが沈静化した以降、現在に至るまで、ずっと、だ。やつら謎の隠密行動をとり続けているんだ。不気味なほどに、徹底して、な」マイケルが一旦話を切る。

メイスンがすかさず、話の流れを取った。「しかし、それも数か月前から、少し状況が変わってきている」「と、言うと?」マックスの問いにメイスンは続けた。「去年の夏あたりから、おかしな出来事が、徐々に起こり始めたんだ」

綾音が「アッ!」と声を上げる。「“神隠しがやってくる”のことかな⁈」

マイケルが綾音にウィンクして見せた。「ご名答!!」

青と赤のミクロスーツのミクロマン達は、マックスと綾音に細かく説明してきた。去年、2020年の夏頃から、いわき市の子供が、ほんの数時間だけ行方不明になるという出来事が徐々に起こりだしたことを。話の内容は、綾音が噂話で聞いてきたものと、まったく同じであった。姿を消していた間の記憶は本人に一切ない。ケガを含め、誰かに何かされた形跡もない。学校帰りとか、塾の帰りとか、ひとりで遊びに出かけた先でとか、通常の日中生活行動サイクル内から飛び出さない時間帯中の短い間と言うこともあり、心配した親が捜索願いを出したようなケースは皆無。気のせいだ、ボーッとしていたのだ、ストレスから一時的な記憶障害的なものを起こしただけだ、と、周囲には済まされてしまう。被害者は、そのパターンで占められていたのだった。

「奈月ちゃんのことや、あたしが巻き込まれたことも含めて、噂話はすべてアクロイヤーが起こしてる事件というのが真相なんだね⁈」昨日の出来事の後、綾音は関わった出来事をミクロマン達にすべて説明していた。マイケルとメイスンはその通りだと、深く頷いてきたのであった。「調査中、子供たちの間で噂話が広まっていることを知ってね。実際に神隠し事件の調査に乗り出したのがふた月ほど前、真相を知ったのはひと月ほど前のことになる・・・」

 

「マックス、これを見てくれ」メイスンは更なるウィンドウを開き、彼らが調べ、突き止められた範囲内の情報――被害を受けた子供達のリストと、神隠しに偽装して何が行われているのか現段階までに判明している情報――を表示させた。

「なに⁈ なに⁈ 小さすぎる上に、どこの文字かわからないから読めないんだけどー⁈」俄然、強い興味がわいてきた綾音が必死に抗議する。小ささは別としても、文字はミクロマン達の文字であり、確かに綾音には判読不可能であった。

「ちょっと待ってくれ」マックスが、画面に表示された被害者たる子供の一覧をじっと見つめる。そして彼はすぐにあることに気が付いたのであった。

「綾音、これはそのアクロイヤー神隠しにあった子供たちのリストだよ。僕の勘違いでなければ、どうも共通項があるようだ」「共通していることがあるの?」「うん・・・2011年の3月から4月の頭ぐらいにかけて、いわき市で生まれた者が、主にターゲットにされている・・・という風に見える」「は? は? その辺が誕生日の子供が狙われているの⁈ マジヤバイじゃん!! うち、誕生日、2011年4月7日なんだけど⁈」

「偶然、綾音も誕生日がその範疇に該当してるようだな。今日、学校のパソコンのデータを目にして、俺も知ったよ」マイケルは他の二人に目をやる。「今日、綾音の学校にアクロ兵が忍び込んでな、学校のパソコンから、やはり誕生日がその辺に該当する子供のデータを盗み出そうとしていたんだ。勿論、阻止してやったがな!」

メイスンが「やはりな」という表情になる。「パトロールしている中で、綾音の学校にアクロイヤーが目をつけていることを知った。先日バンパイザーがうろついていたんだ。やつらは今、君の学校に通う、該当する子供達を調べ始めているようだ・・・」

アクロイヤーは、子供たちに一体何をしているの――?」綾音は自分が昨日の夕暮れに体験したことを思い出し、ゾッとしながら尋ねた。

マイケルは、綾音が読めない大型画面に映し出されている報告データに手をかざした。「催眠術にかけてひと気のないところに連れて行き、“何か”を調べている。どうも彼らにとって必要なその“何か”がある子供を見つけ出そうとしているようなんだ」

メイスンが話を接いだ。「だが、その“何か”が、今のところ我々には分からない。確かなのは、騒ぎを起こして仕事がしにくくなることを避けたいらしく、用がない子供には指一本触れず、速やかに帰して目を覚まさせるってことだ。勿論、その間の記憶は一切消して、だ」

「俺らや他の仲間たちでやってる“いわき調査・監視班”が、長年かけて調べ上げた情報と、去年からのやつらの動向を合わせて導き出した、ひとまずの答えがある。

やつらは2011年4月以降、何か事情が出来て、いわきへのあからさまな侵略行為を行うことを控え始めた。それが何故なのかは不明。断言はできないが、子供を探し始めたこととその事情はどうもリンクしている気配がしている。

また、自分たちの目的とする子供が、ある程度おおきくなるのをおとなしく待っていた節がある。おそらくなんだが、赤ん坊や幼稚園、小学校低学年ぐらいじゃ、少しでも見当たらなくなったら即、周囲の大人が大騒ぎになって、以後、自分らの仕事に支障をきたすことになると判断したんだろう。だから、ほんの少しの間、姿が見えなくなっても問題視されないくらいの年齢・・・小学校中学年ぐらいになるのを待っていたのではないか、と。

あとひとつハッキリしていることがあって、探している当のご本人さん達も、どの子供が自分達の目的に該当するのか見当がついていないらしい、ってことが挙げられる。いわき生まれで、誕生日が2011年の3月から4月くらいまでの子供の誰か、というのだけを目安にして、行き当たりばったりに、あちこちの子供を連れ去っているとしか思えない風に見えるんだ。勿論、同じ地区の子供ばかり連続でさらったら怪しまれることを想定して、わざとあちこちランダムにしているんだとも思うけどな」

 

「“いわき調査・監視班”? 今、君たちはそこに所属しているのか?」マックスは初めて聞く部署名である。

マイケルが重いため息をついた。「そうだ。311の戦いで深い傷を負った俺とメイスンが富士山麓本部に運ばれたのは覚えているだろう? 傷が癒えた後、Iwaki支部が仙台に統合されたのに合わせて、仙台支部に所属することになってな。それで、行方知れずのままだったダンナやミラーのことが気がかりだったし、やっぱり長年住んでたいわき市のことが忘れられなくて、よ。新しく設立されることになったその部署に志願して、この仕事に就いたって訳さね」

メイスンは手に持ったままだったハンディコンピュータをテーブルに置く。「411以降、アクロイヤーの動向がまだ不鮮明だった頃なんだが、いわきは“最重要監視区域”に、本部が指定した。アクロイヤーの謎の行動に対し、下手に刺激を与えず、何をしているのか調査・監視した方が良いだろう、という判断からだ。Iwaki支部がないことも相まって、ひとまずのところは見張るだけにしたわけだ」

マイケルがメイスンを肘でつつく。「メイスン、本部が“最重要監視区域”に指定した、もうひとつの事情も説明してやれよ」

 

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「もうひとつは・・・」メイスンは巨大スクリーンに新しく大きなウィンドウを開く。それは、青い色をした戦闘用人型ロボットがミクロマシンと戦っている場面と思わしき、ノイズの多い不鮮明な映像であった。その大きさは、ロボットマンほどであろうか。

「やはりアクロイヤーの動向がまだ不鮮明だった同じ頃のこと。二回にわたり、Iwaki支部をなんとか再開させようとする動きがなされたことがある。が、Iwaki基地に訪れた仲間たちが、二回ともにこの謎のロボットに妨害された。これも理由は分からないままだが、こいつは我々が何か事を起こそうとしない限りは襲ってこないという、謎の動きを見せている」

マイケルが興奮したように言う。「情報では、こいつ、アクロイヤーとも交戦しているところを目撃されているんだぜ⁈」

マックスは首を傾げた。「アクロイヤーでは・・・ない?」

メイスンが首を振る。「おそらくミクロマンでも・・・ない、と思われる。だから、何者かもわからない得体の知れない存在、しかも我々の持つマシーンを上回るパワーを持っている存在と言うこともあり、こちらサイドの被害をこれ以上拡大させるよりも、まずはこのロボットについても調査・監視した方が良いという事情が出てきた・・・。これらの理由から、本部は“最重要監視区域”に、指定したというわけだ」

黙って話を聞き続けていた綾音が、目を爛々と輝かせた。「味方ではないのかも知れない。けど、敵とも戦う、謎の第三勢力の巨大ロボット兵器⁈ スゲぇ、カッコいいんですがッ!!」

 

「俺たちの所属する班の調べで、アクロイヤーは子供をさらうと言う事件を起こしていることが明るみに出始めた。確たる証拠である誘拐現場に、我々と仲間はこのひと月の間に2度も遭遇したのさ。そして昨日は、――まったくの偶然なんだが、俺たちが通りかかったところで――、綾音がアクロイヤーにたまたま出くわし襲われたところにも遭遇した。

情報は情報のままではなく、謎は謎のままではなくなってきたんだ。やつらは悪巧みを考えてて、何か事を起こそうとしているに違いない。

勿論、既に、上に報告はあげてある」マイケルが富士山麓本部のことであろう、そちらの方角を、腕組みしたままの人差し指でさし示して見せたのだった。

 

「マックス。これで、君が知りたがっていた話は、すべて、だ。・・・どう、思う?」メイスンが、まるで何か期待を寄せているような目でマックスに問う。

マイケルも、まったく同じ目をしていた。

ふたりのことを交互に見て、マックスは当然のようにあっけらかんと答えたのだった。

「勿論、決まってるじゃないか。いわきの子供たちを守るために、平和維持活動を再開する。どうしていくか上の返答待ち? 待ってる必要はない! こちらから早速連絡を入れて、いわきにおけるミクロマンの“新しい使命”に、自らを費やすことを伝えようと思うんだが?」

マイケルが、ヒューッ! と口笛を吹いた。「来ました、来ました、来ましたよ!! ダンナのそのお答え待ってましたよッ!! “いわき調査・監視班”なんてつまんねー仕事、もう飽き飽きしてたんだ。俺たちだけだったとしても、Iwaki支部を再開させようぜ!!」

「異論はない」いつも無表情なメイスンが、珍しく顔をほころばせたのだった。

マックスが言う。「メイスン、すまないが、君のマシーンの新型通信機を指令基地にリンクさせてくれないか。みんなで早速、富士山麓本部に連絡を取ろう」

マイケルとメイスンは親指を立てて、大きく頷いてきたのであった。

 

〔つづく〕

第4話・新たなる使命<前編>

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――いわき市のどこか。人間にも、ミクロマンにも知られていない、謎の場所がある。いや、厳密にいえば“空間”と言った方が良いだろう。そこは計り知れない広さを持つ謎の暗黒空間であった。中心部に、仄かにぼんやりとだけ輪郭が金色に光る、球形をした部屋のようなものがある。大きさは分からない。小さいようで大きくも思えるし、その逆であるようにも感じ取れる。

部屋の内側には七色の彩色だけの風景があり、音、光り、匂い、肌触り、ありとあらゆる感覚すべてが歪んでおり、正常さに欠いていた。まともな精神の持ち主であれば、1分もしないうちに頭痛や吐き気に苛まれてしまうような異常さに満ち満ちている狂気の部屋だ。

ふと七色の風景の歪みが収まり、ぼんやりとした金一色に世界が落ち着く。すると、黒い点がじんわりと空間に滲み出て膨らんだ。次第に形になるそれは、黒い体をした悪魔のような姿をした異形の小人となる。頭部には二本の角、胴体を構成しているのは竜の顔のような胸と浮かび上がる肋骨と背骨、右手は大きなボール、左手はかぎ爪、両の足は爬虫類の手足が肥大化したような、すべてが醜い、とても奇形なる姿かたちをしていた。

黒い物体に続くように、すぐそばに緑色の点、銅色の点、が現れる。しかし、これらはそれ以上、変化は起こさなかった。

「アクロ兵の操る、アクロメカロボ6体、量産型バンパイザー1体が連絡を絶った。人間の少女が偶然、我々が利用していたあの山の神社に踏み込んだことから、アクロ兵が追い払おうと勝手に動いてしまった結果だ。どうも周囲をうろついていたらしいミクロマン3体に騒ぎを知られ、交戦となり、すべて破壊されてしまったと思われる」黒い悪魔が喋った。のしかかる様な重みのある中年女性の声で、語感から少し苛立っているのが分かる。

「傷つけず、穏便に、怪しまれないように、我らが“探し求める子”を見つけ出す計画も、徐々にミクロマン達に察知されてきている。しかし、きゃつらのIwaki基地はすでになく、この地から我々を排除する為の大きな活動はいまだ止まったまま。怖るるにたらず。焦らず、着実に、計画を遂行するのだ」緑色の点、理知的な若い女性の声が黒色に言った。

「我らがアクロイヤーの繁栄と未来の為に・・・」と、銅色の点。銅色の声はしわがれた老女のようである。

そう、銅色が口にしたように、ここにいる“3つのもの”こそが、アクロイヤーであった。

「このデモンブラックが、引き続き捜索を続けさせてもらう」黒い小人、アクロイヤー・いわき侵略軍幹部の一人であるデモンブラックが、強い自意識を誇示するように、わざわざ名乗ってみせた。

「我らがアクロイヤーの繁栄と未来の為に・・・!」老女声の銅色アクロイヤーが先ほどと同じ言葉を口にすると、他のアクロイヤー二名が声をそろえて「我らがアクロイヤーの繁栄と未来の為に・・・!」と唱和する。

そして、3つのアクロイヤーの姿がふいにかき消すようになくなると、球形の部屋は再び狂気を帯びた歪んだ七色の色彩に戻った。

ここは、人間もミクロマンも知らない、ミクロの悪魔が棲む“アクロイヤー空間”である。狂気がすべてを支配していた。

 

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――磐城家の綾音の部屋に、3人のミクロマンの姿があった。バンパイザーとの交戦の後のことだ。綾音の計らいで、黄色いミクロスーツのマックスと、青スーツのマイケル、赤スーツのメイスン達は、ここで改めて再会の感動を噛みしめていたのであった。

辰巳はと言えば、母親が迎えに行った保育園の帰り道、母親の用事に付き合っていてまだ帰宅していない。

「10年間眠り続けていたこと、目覚めてからのことは、先に話した通りだ。正直、眠り続けていた間のこと、そして今現在のことはさっぱり分からないでいる。色々と教えてくれないか」綾音の電子ピアノの白鍵盤に立つマックスが二人に問いかける。

「大雑把な性格の俺さまは、こと詳細を話して聞かせるっていうのが大の苦手で、な。すまんがメイスン、頼むぜ」ピアノの黒鍵盤にだらしなく足を伸ばして座り、下唇を突き出すマイケルを見て、メイスンは軽くため息をついた。「自分は、話が、苦手だ」軽く頭を左右に振り、「だから、君が知りたがっていることを、順を追って、簡潔に、頑張って伝える」と、ボソボソと口にしたのだった。

 

「まず、411の日、君がいなくなった後のIwaki基地のこと、だ。アクロイヤー・グリンスターに率いられた、量産型ジャイアンアクロイヤーに、攻撃を受けた。その少し前、仙台支部から応援にたった一人駆け付けたレスキュー隊員の操るロボットマン2が到着。エンジニア・マリオンと共に応戦。たった二人でどうにかできるはずもなく、マリオンは彼のラボ(研究)施設も兼ねていたミクロ・ロケットを起動、ロボットマン2と共に脱出しようとしたようだ。だが、攻撃を受け、グリーンスタージャイアンアクロイヤー並びにロボットマン2を巻き込んで、ロケットが大爆発。水石山上空で、彼らはこの世から消滅した・・・」メイスンは無表情のまま言葉を切った。冷たいわけではない。感情を表すのが下手な性格と言うだけで、仲間の死に心を痛めているのは確かである。付き合いの長いマックスは十分承知していたのだった。

「そうか。マリオン・・・最後の最後までありがとう」マックスは深く何度も頷く。

「411のことは了解した・・・。ところで、他に誰もいなかったと思うのだが、その時の出来事はどうやって知りえたんだ?」マックスの疑問に、マイケルが口をはさむ。「Iwaki基地をあとから調べに行った仲間連中がよ、ボロッボロの基地の、外部監視カメラの一部がまだ生きてたことに気が付いてな。部分的にしか映ってないが、録画データが残ってたって訳さ。形見にデータ・コピーは持ってる。いま観るか?」「そうか。いや、今はいいよ」マックスは観るのが辛い気がした。

 

話が苦手と言いつつも、今は重大な役割を担わされていると、メイスンは努力して話を続ける。「311を境に、我々の通信機器やレーダーが異常を起こしたこと。これについては、その後、調べが付いた。言わずもがな、アクロイヤーの仕業だ。我々が使う電波を狂わす、アクロ妨害粒子とも言うべきものが、やつらによって作られ、広く散布されたのだ。

厳重な防衛網が張り巡らされている、富士山麓本部、東京、仙台、名古屋、大阪と言った大型支部についてはさすがに手が出せなかったようなのだが、いわき支部を含む、地方小支部周辺は、完全にターゲットにされた。

それはいまだに、電波障害を起こす効果を発揮している、恐るべき粒子だ。本部が総力をあげ、科学的に排除を試みたが、うまくいかず、結果、ミクロマン通信機器とレーダーは、影響を最小限に抑えられる新型が開発された。100%障害をまぬがれるとは言い切れないのだが、今はそこそこ使えるその新しいものにすべてが入れ替えられ、使われてる次第だ。

日常使用されているチャンネルについても、従来のものは長年使われ続けていたことからアクロイヤーに傍受される可能性が懸念されたこともあり、新型導入に合わせ、やはり使用をすべて終了。まったく新しい、やつらが想定できないようなものをチョイス、今は使われている。

勿論、いまだ宇宙を彷徨っているかも知れない仲間、地球のどこかに落ちても復活できずにいる古くからの仲間とやりとりする為のチャンネルや、311・411の出来事から大けがをし、カプセルに救助されたらしいが行方不明のままの仲間が発信しているだろう、以前までの救助信号等は、そのまま送受信できる態勢は取られている」

マイケルが空をツンツンと何度か指さす。「この間、ダンナが山の中や隣県に行っても、以前通り通信できなかったと言うのは、その為さね。レーダーや通信機は壊れたのではなく、重度に妨害されていた。で、ダンナの知っている、かつてのチャンネルは、人間のアナログ放送のように現在使われておりません、って訳だ」

 

話すことが苦手なメイスンは段々と疲れてきてしまったようで、急に口を閉ざすと、何も話さなくなってしまった。それを見て、「お疲れちゃん、メイスン。続きは俺が話すぜ」と、マイケルが身を起こし、表情を真面目なものに改めた。

「次は、俺たちの大切な仲間、ミラーのことだ」口調が重くなったマイケルに、マックスは顔をこわばらせる。M12Xチームにはもう一人、緑色のミクロスーツを身にまとうミラーと言う仲間がいた。彼は311の戦いで行方不明となり、マックスが知る限り411のあの日まで発見されていなかったのだ。

「残念ながら、やつはいまだに行方知れずのままだ」マイケルは少し沈んだ顔になる。「だが、ミラーのカプセルが緊急出動し、そのまま見つかっていないことからも、死んだとは言い切れない。ダンナ同様、まだケガを癒している最中なのかもしれないし、綾音が見つけてくれたように、安全な場所に出てこれないままなのかもしれないからな」気を取り直したように綾音を見て、ウィンクしてみせるマイケル。

 

ずっと黙って聞いていた綾音は、自分の名が出てきたのをきっかけに、口を開いた。「あの、話を聞いてて、質問あんだけど」「なんだ?」マイケルが綾音の方に体を向ける。「アクロイヤーが電波を妨害してたなら、どうしてカプセルはマックスとか、そのミラーって人のピンチをキャッチして助けに行けたの? デンパショーガイってやつが邪魔してたのに。あと、安全な場所に出てこれてないと、と言うのはどういう意味?」

マイケルは綾音の机の隅に置かれていたマックスのカプセルをあごで指した。「カプセルはピンチの電波をキャッチするんじゃない。生体オーラ感応装置ってやつが中に入ってて、持ち主の生体オーラに反応する仕組みになってるんだよ。それは“電波”とは違う仕組みだ。死にそうな生体反応になると、その“オーラ”をキャッチするんだな。だから、電波障害の影響は受けないって訳。

で、安全と言うのは、そのまんま。土中や水晶の中に閉じ込められていたらカプセルを開くことはできないし、例えばどのような生物も一瞬で即死してしまうような毒ガスの中にカプセルがあったとして、安全を第一とするカプセルがご主人様をそんなところにおっぽり出したらまずいだろ?」

「ああ、うん」それらの光景を想像する綾音。

「だから、カプセルが持ち主を外に出しても大丈夫かな、と周囲をスキャンして調べて、まぁここなら出してもいいだろうって思える場所でないと出さないし、中にいる人物も出してもらえないまま眠り続けることになるって寸法だ」

綾音は三崎公園でマックスを見つけたあの日のことを思い出していた。「スキャン・・・マックスが出てくる前、あのカプセルがピカって光ったり、ピーピーって電子音みたいのがしたのが、そうかな?」「それ、だ。綾音たちや部屋の様子を見て、カプセルは大丈夫だと判断したんだ。ピカっと光ったのは、ついでに太陽光を吸収、エネルギーに変換したんだろうな。カプセルは周囲のエネルギーになりそうなものを吸い込む装置も搭載されているんだ」マイケルはまるで偉い教師になったかのようにふんぞり返り、腕組みをして、大げさに首を縦に振って見せたのだった。

 

「綾音、きみは、鋭いところをついてる」話すのに疲れてしまっているのに、メイスンが自ら話し出した。「付け加えて言うと、カプセル自体は、微弱ながら救助信号を、電波で出す仕組みも持っている。なぜ微弱かと言うと、生命維持装置や生体オーラ装置と、電波装置は非常に相性が悪く、強い電波を出すものは搭載できないんだ。強いと、生命維持装置の機能を狂わせたり、生体オーラ装置の感度が非常に悪くなってしまうんだよ」

綾音はこの間、学校の保健の先生が話していたことを思い出した。「あれかな・・・病院の中の機械のそばとか、ペースメーカーをつけてる人のそばで、スマホとか電波が出る機械を使っちゃいけない、使うと機械が狂う、というのと一緒?」「その通りだ」メイスンはマックスに目をやる。「マックスやミラーのことを、我々は、折を見てずっと捜索していた。だが、救助信号の弱さの上に、アクロ妨害粒子の為、信号をどうしてもキャッチできずにいたんだ。電波を感知する機器を新型に交換しても、その辺は昔の物と大して変わらないまま・・・」

 

「アクロ妨害粒子、か。まったくやっかいな発明をしてくれたもんだ。でも、と言うことは、先日、隣県に赴いた時、救助信号の方を出していれば、皆にこちらの電波を拾ってもらえたのかも知れないなぁ。隣県に行ったら機械が正常に動いたから、各基地との連絡チャンネルばかり合わせてしまって、そこまでは思いつかなかったよ・・・」マックスのぼやきが、やけに重苦しい口調だったので、他の三人は気になり目をやる。

いつの間にかマックスは青白い顔で黒鍵盤に腰かけていた。「マックス、なんかメチャ顔色悪いよ。具合でも悪いの⁈」綾音が心配すると、「ちょっと力を使いすぎたようだ・・・」と、マックスが顔を手で覆った。

「さっきの話からして、ここんところ休まずメカの修理をしたり、さっきも超パワーを使ったんだろ。疲れない方がおかしい。今日はもうカプセルで休むんだ。続きは明日にしよう」疲れの色が濃厚な仲間を、青と赤スーツが労わったのだった。

 

――翌朝、綾音は目を覚まして驚いた。ベッドに潜り込んだ後の記憶がまったくない。あんなに怖い思いをした後、再会したミクロマン達の様子を見て己も感動し張り切って彼らのシリアスで難しい会話に参加したのだ。疲れない方がおかしいと言うものだろう。泥のように眠るとはこのことかと綾音はひとり納得したのだった。

部屋も寒いし、もう少し寝ていたいと言う気持ちはあったが、ミクロマン達はどうしているのだろうかと気になり、綾音はベットから飛び出す。学習机を見ると、青スーツのマイケルがひとり伸びをしていた。「おはよう」と声を掛けると、「よっ!」とマイケルが快活に挨拶を返してくる。

「他の二人は?」綾音の質問に、マイケルはみっつ並んでいるカプセルに近付いた。ひとつは元からいるマックスの物。他のふたつはマイケルとメイスンが昨夜、話が中断した後、近辺のどこぞかに置いていたものを回収(?)、綾音の家に運び込んで来た自分達の物である。

マイケルが寝ている二人の、カプセル表面にある状態表示パネルを確認した。「マックスはさすがにエネルギーの使い過ぎで、パワー充電中。おそらく今日一日は起きれないだろうな。で、メイスンは・・・」

赤スーツのメイスンのカプセルの前で「な、なんだって⁈」とマイケルがのけぞる。

 

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「ど、どした⁈」何事かと綾音。

マイケルは足元のメイスン・カプセルを指さしながら、「こいつもパワー充電中だってさ! 柄にもなく喋りすぎてエネルギーを大量消費したらしい!」と、カプセルが持ち主のバイタルチェックをして導き出した、パネル上の状態異常の説明内容に吹き出したのだった。

「あんなにメイスンが話をしたのは、俺も初めて見たかもしれない。相当ムリしたんだろうなぁ~、可哀想になぁ~」

自分がそう仕向けたくせに、すっとぼけて見せるマイケルであった。

 

――学校に遅刻しないよう急いで身支度を整える綾音。それを眺めていたマイケルが頼みごとをしてきた。「おい、綾音。頼みがある」「なに?」「今日、お前の学校について行ってもいいか?」「は? なんで?」マイケルは腰に手を当てた。「詳しいことは、マックスが目を覚ました時に説明するが、いま、いわき市の小学生たちが、アクロイヤーの謎のターゲットにされているんだ」綾音は、奈月のことと、自分が経験した山の神社の出来事を思い返す。

「ここ最近、アクロイヤーの先兵が、密かにいくつもの学校をうろついてることが分かってきている。実は先日も、バンパイザーが君の学校を調べていたのに遭遇したばかりなんだ」「えええっ、そうだったんだ⁈」「マックスが倒したのがそいつだったと思われる。でも、昨日のあれで大人しく引き下がるやつらじゃない。もしかすると、今日にも何かするかも知れない。オレ一人で潜入しようと思えば出来なくもない。ただ、こうして知り合えた君のランドセルあたりに潜り込ませてもらって中に入れば、余裕のよっちゃんで入れるだろう? 学校を一応パトロールしようかと思うんだ。それに、ふたりは今日起きないだろうし、一人でお留守番って言うのもあれだしな~」

「うん、うん。そういうことなら、全然了解です!」綾音はマイケルをさっと肩に乗せると、彼の愛機であるニュー・ビームトリプラーをランドセルの隙間に忍び込ませたのであった。

 

「行ってきまぁす!」綾音が外に出ていくのを、保育園に行く準備をしていた弟の辰巳が見送った。よく見ると、姉の肩にミクロマンが乗っている。でも、あれ? 黄色いミクロスーツではなく、青いスーツだ。

「変だなぁ? マック、着替えたのかな?」と辰巳は首を傾げたのだった。彼はまだ、マックスの仲間たちが自分の家に来ていることを知らない。

昨夜の流れが流れだけに、綾音はマックスが元気になってから新しいミクロマン達のことを辰巳に教えようと思ったのである。

 

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「綾音、アクロイヤーなんかにビビるこたぁないぞ!」登校路を進む少女の左肩の上、彼女の髪につかまりながらマイケルが力強く言う。

「う、うん」綾音がアクロイヤーを思い出し、怖がっているのをマイケルは察した。

「大丈夫、俺さまがいわきにいる限り、君や子供らのことはしっかり守ってやる! 特に今日は俺がボディーガードだ。お前はしっかり勉強して、しっかり給食を食べろ! ガハハハッ!!」

豪快に笑うマイケルに、綾音はマックスとは異なる頼もしさを感じ取っていたのであった。

 

〔第4話・新たなる使命<後編>に、つづく〕

次回予告(4)+【登場人物&メカの紹介③】

【登場人物&メカの紹介③】

 

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人物◆M-122マイケル(男性ミクロマン

“乗物をあつかうのがうまく、パイロットの腕は抜群” (当時の商品解説より)。

M12Xグループの一員で、ミクロスーツがブルーとホワイトのツートンカラーをしている。

Iwaki基地一番の豪快さの持ち主で、少々ガサツでマナー知らず。しかし、持ち前のユーモアさで、その場を明るくしてしまえる大のひょうきん者だ。とても頼れるマックスたちの友人である。

ミクロアース時代は一流レーサーをしていた程のマシーン操縦テクニックを持ち、地球に来てからは、次々と開発されるミクロマシンのテストパイロットを務めている。幾度となくマシンを乗り換えてきているが、現在の愛機は“ニュー・ビームトリプラー”だ。

 

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メカ◆ニュー・ビームトリプラー(ミクロマシン)

地球に訪れたミクロマン達の手によって極初期に開発、使用されていた建設/防衛用マシーン・ビームトリプラー。そのデータを基に、アクロイヤーとの戦闘を目的として再設計、新規に開発された同機の後継機が、このニュー・ビームトリプラーである。

ボディ中心部は量産型•流星ロボであり、それにトリプラーパーツを追加、変化合体させてある。その為、流星ロボのAIが搭載されており、仮に搭乗者がおらずとも、ある程度までは自立システムで運用できる。

あらゆる悪路をものともせず、地上を超高速で移動可能。飛行能力も有する。

ダイヤモンド、鉄筋コンクリート、岩石などを溶解・切断できるほどの破壊能力を持つビーム砲一門(ビームガン、ビームマシンガン、ビームバズーカの3パターンに切り替え可能)を基本武装としており、ボディ全体の曲面からは、仲間や子供たちを守るセーフティーゾーン・バリヤー(保護防御空間)を生成可能だ。

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マックスが仲間から聞かせられる空白の10年間とは? そしてアクロイヤーはいま何を企み蠢いているのか――⁈

次回、『第4話・新たなる使命』に、君もミクロ・チェンーーージッ!

第3話・神隠しがやってくる<後編>

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――週の終わりが近付いてきている。綾音たちのクラスはいま、校庭でドッジボールを行っていた。金曜日の今日、4時間目は体育の授業であった。

運動が得意な綾音はドッジボールが大好きで、いつも張り切って相手チームにボールをぶつけていたが、その日はいまいち気持ちが乗れずにいた。動きも鈍く、あっという間に敵にボールを当てられてしまい、外野にさせられてしまう。気持ちが乗らない理由は、奈月の身を襲った不思議な出来事が頭から離れずにいたせいだった。

全然知らない別の子だったら違ったかも知れない。それが友達ではないにしても、顔を知っている子で、しかも記憶がない彼女が取っていた行動の一部分を目撃してしまっていたのである。知ってはいけない秘密を覗き込んでしまい、得体の知れない出来事に自分自身も関わってしまった・・・という怖さがあった。

なんだか下手にこの事実を人に話してはいけない気がしたので、陽斗の相談LINEに対する返信も、『気にしないように言って、あとはいつも通りに接してあげればいいよ。その方が相手も気が楽になると思う』とだけ答えて済ませておいたものである。

その後、他の誰にも、今のところ何も教えてはいない。

 

「磐城さん?!」クラスメートの呼ぶ声に、綾音はハッと我にかえった。やや右斜め上をオレンジ色のボールが通り過ぎ、低い緑色のフェンスを飛び越えて行く。無意識のうちに考え込んでしまい、仲間がパスしたのに気付けなかったのだ。ボールはフェンスの向こうの地面に落ちると大きくバウンドし、勢いよく転がっていってしまった。

「ごめん、すぐ取ってくる!」綾音はフェンスの出入り口から、校庭を取り囲んでいる林の中へと走る。綾音の通う小学校は、小高い丘の上、木々に囲まれた場所にある。林はそんなに深いわけではなく、木々がまばらに生えている程度だ。そんなに離れていない一本の木の根元にボールは転がって行きぶつかるとその動きを止めたのだった。

「あの子は無事に帰ってきたんだし、問題ない。気にしない、気にしない・・・」自分に言い聞かせながら走る綾音。到着すると、ボールをすぐ拾う。

振り返って戻ろうとした時、綾音はもう少し先に行った場所、ちょっと見た目、気持ちが悪い枯れ木が鬱蒼としているところに目が留まったのだった。木の枝に黒い生き物がいたのだ。一瞬、カラスかと思ったが、枝に逆さにぶら下がっているところからして、おそらくコウモリであろう。距離があるのでよく見えないが、間違いない。

生のコウモリを見かけるのは珍しく、観察したいと思ったが、綾音はいま体育の授業中だ。大人しくクラスメートのいる場所へと引き返すことにする。クラスメートの女子数人がフェンスのところで手招きをしていた。

 

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綾音が偶然目撃したコウモリは羽を広げると、急に枯れ木から飛びだった。何か危険を察知した風である。コウモリを追いかけるように、木々の隙間をぬってふたつの物体が現れ、その後をすぐ追いかけ飛んで行く。ひとつは緑色の物体、ひとつは紫色の物体だった。遠くから見たら、鳥らしきものがコウモリを追いかけていった様に見えたことだろう。

しかし、実際は違う。緑色の物体はバイクのような形状をしており青い人影が、紫色の物体は飛行機のような形状をしていて赤い人影が、それぞれ乗っていたのだ。大きさはと言えば、物体は15㎝程、人影は10㎝程しかない小人サイズであった。

 

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――学校が休みである、土曜日の夜。綾音は悪夢を見た。

深く暗い山の中に奈月がいる。目がうつろで、意識がもうろうとしている様子だ。彼女の前に一匹のコウモリが羽ばたき、どこかへと導き連れて行こうとしている。「行っちゃだめだよ!」声を掛けるが、彼女の耳には届かない。いつしか少女の足元を取り囲むように、仄かにボウッと青白く光るシャレコウベの形をした小さな人魂がいくつも現れ、まるでやぐらの周りで盆踊りを踊るようにゆっくりと回り出した。夢の中の綾音が、奈月の向こう側に気配を感じ、目をやると、真っ黒い影だけの悪魔のような姿をした何かがおり、真っ赤な両目ばかりをギョロギョロさせて奈月を舐め回すように見ているのを知った。

あの悪魔は・・・“女だ!”と、綾音は直感した。女悪魔の影の両手が伸び、奈月に触れようとした次の瞬間、綾音は恐怖におののいて悪夢から目を覚ましたのである。

 

――翌週のピアノ教室の日。綾音はある決心をして我が家を出た。その決心とは、帰り道、山の神社を確かめに行くというものである。奈月の意識がなかった間のことを気に病み、悪夢にまで見てしまうような、どこかモヤモヤとした気持ちが拭えない自分を少しでも平常心に戻すには、己が唯一関わり合った“目撃が起きた場所”を調べに行けば気が晴れるきっかけになるに違いないと想像したのだ。変な話だが、行ったところで何もないだろうし、何も分からないはずだ。分かりきっていることであるのだが、それを敢えて行い、調べようにもそれ以上のことは何も出来ないと完全に実感さえできてしまえば、気に掛けることにも諦めがつくような気がしたのである。

あの時、奈月が目指していたのは階段上のお社のはず。そこに訪れてみるのだ・・・。

ピアノ教室に行くついで、でもある。本当はまだ明るいうち、行く時に回ろうかとも思ったが、教室に間に合わなくなってもまずいので、帰り道に寄ることにしたのであった。

 

いつものようにピアノ教室の生徒の順番は、奈月の方が先であった。入れ違いに出ていく彼女の様子は元気そうで特に問題なさそうに見える。その姿を見て、綾音は少し安堵した。

 

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1時間後の黄昏時。夕暮れに染まる山道のてっぺん、神社の入り口に綾音は押してきた自転車を止めた。周囲には人っ子一人いないし、車の往来もない。入口にあたる石造りの鳥居の周囲一帯を含め、階段の両側は木々が鬱蒼と生い茂っている。下から覗き込むと、いつもと変わらず、苔むした石造りの暗い階段が上まで伸びている不気味な様相の空間があった。

正直、怖い気持ちはあった。が、「あたしは行きますよ、一度決めたからには! よっしゃ!」綾音は自分で自分に活を入れると、意を決し階段を上り始めたのである。昔あった東日本大震災の影響が少なからず残っており、階段の段差を構成している石段には一部、がたつきのズレはあったが、問題なく上れた。

結構な段数を上りきったそこには、狭い境内がある。きちんとした小さなお社が建っているが、苔むしており、かなり時代を感じさせるものだ。聞いた話だと、この周辺の祭事などで時たま利用されることがあるそうなのだが、それ以外はほぼ誰も訪れない、本当にさびれた場所であった。

グルっと狭い境内を見回す。お社以外、何もない。周りは深い木々や雑草が生えているだけ。他に道もない。夕方と言うこともあるが、そもそも空や太陽の光をそれほど受けられない立地条件なので、とても薄暗かった。ひっそりと静まり返っており、物音も、何もしない・・・。

冬の冷たい風がヒュウと一度だけ吹き、綾音は寒くて身震いした。周囲の木の葉や雑草も軽くザワザワと揺れる。そして、また静けさが戻ったのだった。

「やっぱさ、何もないよね。“神隠しがやってくる”の噂がどうあれ、奈月ちゃんのことはやっぱ気のせいとか、ストレスから来る心の病気が原因・・・」そこまで心の中で呟いた綾音は、瞬間的に思考が止まった。左側の雑草が微かにザワと動いたのだ。風が吹いていないのに、である。ゴクリと生唾を飲み込みながら、気のせいか、猫や鳥などの小動物がいるのか、と、確かめる為じっと目を凝らした。

「なんか・・・いる!」綾音は一本の木の根元、太い幹の陰に何かがいるのを察知した。彼女が持つ鋭い直感が働いたのだ。

「な、なんだぁ⁈」思わず声を上げてしまう。陰にいた何かは見つかったのを知り、諦めた(?)かのように、半分だけ姿を見せた。グレーの、丸っこい何かだった。

太ったネズミかと思ったが、綾音はそれが手のひらほどの頭蓋骨であることを知る。

 

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「ギ・・・ギギッ」頭蓋骨の口が開き、どこか、まるで機械的に思える唸り声が発せられた。「・・・⁈」上の方からも気配を感じ、綾音があちこちに視線を飛ばすと、1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・いくつも同じ形の頭蓋骨が木の枝にとまっているのが見えた。

「⁈ ⁈ ⁈」綾音は、これが何で、今どういう状況なのか、まったく理解できずに、頭の中が真っ白になった。

戸惑う綾音の右肩に、突如としてちょっとした重みがかかった。「ギ・・・ギギッ」耳元で何かが唸る。ドキリとして肩を見ると、こともあろうに頭蓋骨のひとつが乗っかっており、視線が合ったのだ。戦慄が走る――!!

凄まじい勢いで全身の毛が逆立った。「ーッ!!」綾音は声にならない声を絞り出し、慌てて肩の頭蓋骨を左手で勢いよく払いのけた。大きな叫び声を上げようとしたが、実はこういう時ほど人間、声が出せなくなるものなのだ。「ヒッ、ヒッ、ヒッ・・・」と、微かにしか喉が鳴らない。

綾音に払われて地面に落ち、ひっくり返った頭蓋骨は体制を立て直すと、再度、綾音に飛び掛かろうとしてきた。「アッ!!」と綾音が両手で身を守ろうとした時、なにか緑色のものがすごい勢いで飛んできて頭蓋骨にぶつかる。不意打ちを食らった頭蓋骨はすっ飛んで行った。

「逃げろ!」太めの男性の声が、綾音に指示した。声は、飛んでいる緑色の物体から聞こえた気がする。

目の端に、今度は紫色の物体が飛んで来て短い閃光をいくつか放つのが見えた。枝の上の頭蓋骨たちが、1体ずつすべてバチンバチンと火花を上げ、「ギーッ」と悲鳴を上げる。

紫色からも、「早くしろ!」と催促する声が聞こえた気がした。

何が何だかさっぱり分からないが、三十六計逃げるに如かず。綾音は振り返らずそこから走り出すと、やってきた階段を急ぎ足で下り出したのであった。

 

階段を下りきった綾音は心臓が爆発しそうだった。先ほどの恐怖と、自分でも信じられないような早さで階段を駆け下りたせいだ。

急いでここから離れようと、自転車に手を伸ばそうとした時、何かが頭上を旋回して回っているのが見えた。まさか、あのお化け頭蓋骨かと見上げると、それは一匹のコウモリだった。この非常事態に、コウモリにまでまとわりつかれるなんて、なんという厄日なんだろう。眉をしかめ無視しようと決め込んだのだが、予想外にもコウモリが急降下、綾音の目の前に降りてきたのだった。綾音は更なる戦慄を覚える。

目の前のコウモリは、学校の動物図鑑や、Eテレでやってた生き物教室番組で見たものとは、大きくかけ離れた姿かたちをしていた。真っ黒な両翼を広げたその大きさは幅30~40㎝くらい。輪郭だけがコウモリと言うだけで、姿はエイリアンのように奇形でグロテスク。生物のようであり機械的でもあるような、皮膚も皮ではなくプラスティックとか金属のような、とても普通の生き物には思えないコウモリだったのだ。しかも翼には真っ赤な色の、まるで槍上の鋭い武器(?)が、何本もついているではないか!

奇怪なコウモリは綾音の目の前でホバリングし、離れようとしなくなる。綾音はどうしていいのか分からず固まってしまった。

信じられないことに、コウモリの小さな両目が黄色くボンヤリと輝きだし、いつしかボワンボワンと光が強くなったり弱くなったりを繰り返してきた。「尋常ではない、危険だ、逃げろ」自分が自分に警告するが、おかしなことに綾音は体の自由がきかなくなっていた。黄色いふたつの光に吸い込まれるような不思議な感覚が徐々に押し寄せてきて、綾音はいつしか意識が遠のきそうになってくる。

その刹那――「アクロイヤー! 僕が相手をするぞ!!」どこからか、知ってる男性の声が聞こえてきた。あの声は・・・マックスだ!

 

数日前から綾音の様子がどことなくおかしいことをミクロマン・マックスは感じ取っていた。事情が分からず密かに心配していたのだが、今日は特に胸騒ぎを感じ、念の為に迎えに出たのだ。教えてもらっていた、行き来していると言う山道をミクロ・ワイルドザウルスで走っている途中のこと。綾音のピンチを彼は超能力のテレパシーで感知。修理して使えるようになった反重力ジャンパー装置を作動、空飛ぶ戦闘車両を最大スピードで飛行させ、今まさに駆け付けたのである。

綾音の目の前をホバリングしているコウモリが、アクロイヤーのメカ、アクロモンスター・量産型バンパイザーであることをマックスはすぐさま見抜いた。

以前、彼の仲間マグネパワーズ部隊が戦った強大なパワーを誇る悪のロボット、アクロモンスター。マグネパワーズ部隊の手により葬り去られた後、他のアクロイヤーがオリジナルのデータをもとに新たに量産した物が、世界各地で確認されていた。いま眼前にいる物も、その1体であろう。

オリジナルは別の惑星において特殊な素材と手法で作られたらしく、それを完全再現することは地球上では100%不可能であったようで、姿かたちはそっくりだが、量産型は性能が劣悪レベルのまがい物、粗悪コピー品であった。すべてにおいて量産型はオリジナルの足元にも及ばないものだったのである。勿論、ミクロマンにとって脅威の存在のひとつであることに変わりはなかったが。

 

マックスはミクロ・ガトリング砲を発射、ミクロ弾丸をバンパイザーに撃ち込む。バンパイザーは何十発と撃ち込まれる凄まじい衝撃にひるみ、一度地面に落っこちると、羽をばたつかせて再び飛び上がった。

間髪入れず、マックスが空飛ぶ戦闘車両を敵に突っ込ませ、スパイクホイール攻撃を繰り出すと、コウモリの黒い翼の一部が切り裂かれた。「ギャ、ギャー!」と悲鳴のようなものを上げ、バンパイザーはコントロールを失い、クルクルと回りながら落下、地面に激しく激突する。

「ギャー、ギャー、ギャー!」バンパイザーは狂ったように両翼をばたつかせ、無理矢理みたび宙に舞いがった。両翼の真っ赤な槍上の武器が動き、マックスの方に向けられようとする。それを見て、マックスはミクロ・ワイルドザウルスを空中で制止させ、ボディの上に立ち上がった。そして腰のスパイマジシャン・ステッキを手にし、目の前で構える。彼が念じると、右手に握るステッキと、左腕のリングが眩しく銀色に輝きだした。

「バンパイザー、この力、受けてみろッ!!」ステッキとリングの輝きがマックスの全身に広がる。「光子パワー全、開!! フォトン・マジシャン・ブレイクッ!!」彼は飛び上がると、弾丸のような凄まじいスピードでバンパイザーのもとへと飛んで行き、強烈なキックをお見舞いした。

 

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ミクロマンの超・運動能力に、彼らのエネルギーのもとである光子の力を解放、そして更に超・超能力ともいうべきスパイマジシャンの特殊武装パワーがすべて組み合わされた、通常の何十倍ものパワーを誇る強烈なハイパーキックである。相当のエネルギーを消耗する、いわばマックスの必殺攻撃技であった。

バンパイザーは目で追えないほどの勢いで吹っ飛び、石造りの鳥居に激突、一部砕けた石材の欠片と共に地面に落ちて山道のわだちをボールのようにゴロゴロと転げまわっていき、マックスや綾音がいるところから離れた場所で、全身から火花を散らし始めた。

そして、ついには打ち上げ花火のような音を出して、爆散したのである。

 

「マックス、助けに来てくれたんだね、ありがとう!」綾音はミクロ・ワイルドザウルスと共に地面に降り立ったマックスの傍に駆け寄り、両ひざをついた。「怪我はないかい⁈」心配するマックスに親指を立ててみせる綾音。「最近、元気がなかったし、気にしてたんだ。特に今日は胸騒ぎもしてね、迎えに来てみて正解だったよ」マックスもホッとした顔をする。

「あれが、アクロイヤーなんでしょう?」成り行きを見守っていた綾音は察していたのだった。「今のはやつらの操る、バンパイザーというコウモリ型ロボットさ」

二人がそんな風に話していると、ヒューンと風を切るような微かな音がして、ミクロ・ワイルドザウルスの両隣に、緑色のバイクのような形状をしたものと、紫色の飛行機のような姿をしたものが降り立った。緑色の乗り物にはブルーとホワイトのツートンカラー、紫色の乗り物にはレッドとホワイトのツートンカラーをした、それぞれマックスとそっくりのスーツを身に着けた身長10㎝の小人たちが乗っている。

「誰が戦っているのか、と思えば! 生きていると、信じていた。ようやく、再会できた」赤スーツの無表情な男性がぼそぼそとした口調で降りてくる。「メイスン!」マックスが笑顔になり、赤スーツの男性に右手を上げた。

「いやぁ、皆さん、お勤めご苦労さん、ご苦労さん。上のアクロイヤーのメカロボどもは片っ端から叩きのめしてやったぜ! ガハハハッ!」青スーツがひょいっと乗り物から飛び降り、豪快に笑いながら大股でマックスの方に歩み寄った。先程から軽いほほ笑みでマックスと赤スーツの人物のやりとりを見ていたのに、まるで今初めて気が付きましたよ、とばかりに「ありゃりゃ、おいおい、こりゃマックスのダンナじゃねぇか! お久! 元気そうで何よりだぜ⁈」と口にし、満面の笑みになってみせる。

「マイケルも、元気そうだ!」青スーツの人物へとマックスが見せている嬉しそうな笑みを見て、綾音は彼が心の底から本当に喜んでいるのだと強く感じ取ったのであった。

マイケルと呼ばれた青スーツの人物の話からして、神社にいたのはお化けの類ではなく、アクロイヤーの手先だったのか・・・とも綾音は納得する。

 

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「マックス、この人たちもミクロマンなんでしょう?」綾音の問いに、マックスは目の前に両手を広げた。「そう、メイスンとマイケルだ。僕が所属しているM12Xチームの仲間であり、Iwaki基地のミクロマン隊員さ。二人とも、この子は僕の新しい友人の、綾音、だ」マックスが綾音に説明、次に仲間たちを見ると、メイスンとマイケルは綾音に軽く敬礼をしてみせてきたのだった。

「マックスの友人なら、俺たちの友人でもある。ヨロシクな、綾音!」豪快なマイケルの言葉に、「その通りだ、宜しく、頼む」と無表情なメイスンがぼそりと続いたのであった。

 

〔つづく〕